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2011/07/01

<オピニオン>教育と産業のグローバル化                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から72回までの記事掲載中)

◆資質見出し発奮させる仕組み作りを◆

 昨今、企業のグローバル化が世界的に進んでいる。ガラパゴスと形容されている日本はグローバル化の波に乗り遅れてきた。その日本の産業界にも急速にグローバル化の動きが浸透しつつある。

 第一に、日本の多くの企業が先進国相手の海外進出を行ってきたが、近年は新興国やアジア地域での現地化や拠点創りが活発になっており、真の意味でのグローバル化が進んでいる。

 自動車業界、電池業界、化学業界、素材業界がその代表になっているが、昨今の円高基調では価格競争力が劣ることから自然の流れとも言える。そして国を超えた協力関係、例えば現地企業との合弁事業も以前に比べて活発になってきた。

 第二にはグローバル人材の採用活動である。大手企業が日本人学生を採用する従来型のスタイルから、海外にいる人材、あるいは海外留学や海外経験のある人材の採用を活発に行い始めた。すでに企業活動の舞台が国際市場になっていることの証拠である。ガラパゴス化した日本国内での自己完結型学生の採用活動が終焉を迎えつつある。その分、学生達は就職活動の段階で海外人材と競争を強いられることになる。

 第三には言葉のグローバル化である。楽天のように公用語を英語にしている日本の企業も出てきた。あるいは入社の基準にTOEICのスコアを設定しているところ、入社してからの昇進に英語のレベルを設定しているところなど、今後はますますこのようなガイドラインが進んでいくものと思われる。サムスンでも中国語の堪能な人材を優遇する採用時のインセンティブまで図られるようになっている。

 このような現代のそして今後の実社会の状況を勘案すると、日本の教育スタイルのありようにも工夫が必要になる。日本では小学校での英語教育がようやく始まりつつあるが、この施行に至るまでにも様々な意見が出された。国語が理解されていない中での英語教育は早すぎるなど。

 しかし、韓国では小学校の英語教育はもちろんのこと、高校では第二外国語の履修もあって国際意識を高めている。その分、語学に対するアレルギーが少なく日本との大きな差をもたらしている。

 日本のゆとり教育の実施、そしてその反省など紆余曲折の変遷を遂げているが、競争原理はいかなる世界でも常識である。スポーツではオリンピックでのメダル、音楽では世界規模のコンクールでの受賞、科学の世界ではノーベル賞など、いずれもグローバルな競争原理の上にもたらされる最高の栄誉である。

 小学校の運動会で1、2位を付けることは平等ではないなどというまことしやかな意見がまかり通る基準、運動会で力を見せつけることのできる生徒にとって機会を奪う不平等な行為と言える。音楽界で世界的に活躍している日本人は少なくないが、そのほとんどは日本から海外に出て刺激を受け研鑽している場合が多く、実社会で活躍する以前にグローバルの世界に入り込んでいる。

 海外での研究を通じて日本人がノーベル賞を受賞するケースが多く、日本の研究環境やインフラの問題も指摘されている。研究成果も日本の学会ではなく、世界に通用する権威ある国際ジャーナルでの掲載がひときわ注目されることから、優先的に海外のジャーナルへ投稿するケースが多い。その分、日本国内の学会がやせ細っている実態がある。

 韓国内でのノーベル賞受賞も期待されているが、日本に比べると基礎研究部門は相対的に弱い。日本の企業に比べて韓国の企業がかける基礎研究の比率が小さい分、学術界もそれに連動している部分があるかもしれない。

 韓国の教育熱がすこぶる高いことは世界的にも有名であるが、ハングリー精神と将来への希望を追い求める精神の結果であり、一方、スポーツ界のあらゆるジャンルでオリンピックのメダリストが急増している実態は、まさに競争意識の高さが生んでいる結果でもある。

 それに比べると日本の生徒や大学生の将来の希望や野心が、他国に比べて相対的に低いことが浮き彫りになっている。それは日本が裕福な社会であることの裏返しとも言える。

 しかし、産業界やスポーツ、芸術、アカデミズムの世界がグローバルという市場でますます競う方向に向いているのであるから、日本の教育はもっとポジティブな競争意識を植え付ける教育、すなわち褒めること励ますことの教育によって、生徒や学生の資質を発掘し発奮させる仕組みづくりが必要な段階になっているのではないか。


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