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2011/08/05

<オピニオン>電池ブームの世界的動き                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から73回までの記事掲載中)

◆競合と協業が世界をリード◆

 電池といっても、一次電池の代表である乾電池や最近目覚しい進展を遂げているリチウムイオン電池に代表される二次電池、そして太陽電池と燃料電池と、原理も用途も異なる電池がそれぞれ存在するが、マスコミやニュースで頻繁に採り上げられるようになってきて、まさに電池革命、電池ブームという社会現象が世界的に湧き起こっている。今回の東日本大震災では一次電池の需要が急激に高まったが、防災の面でも一次電池への期待が高く、メーカーではフル生産でも追いつかず設備増強で生産量拡大のための投資をする企業もある。

 二次電池、とりわけリチウムイオン電池は、今後の携帯電話やスマートフォン、およびノートPCの需要により小型民生市場では継続的な拡大が見込まれているが、特にスマートフォンの急成長がリチウムイオン電池の更なる発展を加速しつつある。これと連動して安全性評価法の国際標準化に関しては、08年3月からの日韓協力体制を築いてきたことで、双方が提案する国際標準化の実現が目前に迫ってきた。12年の前半には世界19カ国の投票にて日韓案が可決される見通しである。

 一方、自動車分野では電動化の大きな波が押し寄せている中、ハイブリッド自動車用では主役を演じてきたニッケル水素電池に代わって、リチウムイオン電池への期待が一層膨らんでいる。電気自動車や家庭で充電可能なプラグインハイブリッド自動車では、最初からリチウムイオン電池が検討されている。

 調査機関によれば、車載用電池の市場規模は15年には6000億円、20年には1兆円、あるいはそれ以上を見込んでいる。安全性評価法については(社)自動車研究所が中心に活動している(佐藤登・小林敏雄監修「電気自動車と電池開発の展望」、シーエムシー出版、11年4月刊行)。

 スマートグリッド、スマートシティーのように新エネルギー体系の実証実験が世界各国で始められているが、ここでも蓄電機能としてのリチウムイオン電池へ期待する声が大きい。韓国でも済州島での実証試験がスタートしている。

 福島の原発事故を受けて再生可能エネルギーへの期待が一気に高まり、その代表格として太陽光発電や風力発電が世界規模で注目されているが、電力の安定利用を進める上で蓄電池との融合が必要になる。いずれにしてもリチウムイオン電池の用途拡大は一層続くと考えられ、エネルギー革命の一翼を担うものであり、研究開発も日韓を始め世界的に加速されている。

 一方の太陽電池は再生可能エネルギーの旗頭として脚光を浴びている。そうかと言って、一気に太陽光発電が主流になり得るわけではなく、段階的に進んでいくことになるであろう。各国の電力事情や電力の質に応じて、さまざまなビジネスモデルが展開されている中、太陽電池そのものは各種原理のシステムが適材適所で実用化されている。

 今後の課題は発電コストをどれだけ下げることが可能になるか、そして研究開発面では高々20%程度の発電効率を、新原理を発見することで飛躍的な効率向上が実現できないかなど、実務的な部分から基礎研究までと幅広い展開が求められている。産業ベースでは世界的に多くの企業やベンチャーが事業に参入していることで、最早セルやモジュール価格の下落に伴い、付加価値を付けたビジネスモデル創りが急務となっている。

 さて、もうひとつの電池である燃料電池。これまではいろいろな用途開拓で研究されてきたが、現在、日本では実証的実用段階としての家庭用燃料電池が注目されている。しかし台数の普及に伴い、政府の補助金が使い果たされ底を突き、普及促進にブレーキがかかる恐れが生じている。研究開発側面では発電効率の向上、コスト低減、ダウンサイズなど課題も多いが、日本ではビジネスモデルのひとつとして期待できる。燃料電池自動車については実用普及に関する疑問も残るものの、自動車大手では開発が進み、15年から販売すると発表しているトヨタやホンダのような企業もある。

 発電事業として見れば、正に原発に代わる分散発電はビジネスモデルとしても考えられ、これは二次電池では実現できない領域であるため、関係各社はその突破口創りを構想している。かように、一次電池、二次電池、太陽電池、燃料電池の四電池は独立系であると同時に、相互補完する立場にもあり、それぞれの技術進化と共に、新たなパラダイムを切り拓くエネルギー体として重要な役割を担っていく。これらは日本や韓国が得意とする分野であることから、競合と協業の両面から両国が世界を一層リードする使命と責任がある。


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