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2011/09/09

<オピニオン>電池業界への社会的期待                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から74回までの記事掲載中)

◆新たなビジネスモデル創出へ◆

 9月2日に札幌にて社団法人電池工業会(BAJ)主催の年次総会が開催された。台風で開催が危ぶまれたものの予定通り実施できた。

 BAJは日本の電池産業の興隆と世界における盤石なリーダーシップを発揮すべく組織機能を有しており、歴史のある日本の電池産業を支援・協力・先導する機能を持ち合わせている。

 韓国にも類似した組織の韓国電池研究組合(KORBA)があるが、機能としてはBAJほどには至っていなく、BAJに匹敵する組織を韓国内に創り出す動きがある。これまではKORBAが韓国政府機関と産業界をとりまとめて、世界標準化の議論に参加したり、対外的な窓口を果たす役割を務めてきた。

 奇しくも本総会が開催された同日の日本経済新聞に、世界シェアトップを走ってきた日本勢のリチウムイオン電池(LIB)が初めて韓国勢にトップの座を譲ったことが報じられ、BAJ総会でも話題になった。

 これは11年4月から6月までの世界出荷実績によるものだが、日本勢が4・3ポイント下げて33・7%に、一方の韓国勢は4・9ポイント上昇により42・6%(サムスンSDI25・3%、LG化学17・3%)という結果である。

 これまで牙城を築いてきた日本勢にとっては大きなショックとして映ったようである。

 BAJの会長は三洋電機の本間副社長であるが、会長講和にて、韓国政府の為替政策や韓国企業の持続的成長に見習う部分が少なからずあること、そして日本政府の施策や日本企業の戦略再構築の必要性などに言及された一幕があった。

 LIBの安全性試験に関する国際標準化は今やホットな案件として議論されているが、08年から日韓で協議されてきた日本発の試験法に関しては韓国も積極的に協力協調した結果、12年前半には国際標準として採択される見通しがついたことで、市場シェア1、2位の日韓にとっては望ましい展開となっている。

 この試験法をクリアできないLIBはグローバル製品として見なされないため、世界市場でのLIBの安全性が担保される大きなステップとなるものである。

 安全性品質で劣勢にある中国のLIBが、この法規をクリアすることでLIB業界の製品信頼性に貢献することを期待する。

 LIBの市場シェアでは日韓逆転劇があって大きな変化を遂げたものの、国際標準のように協業すべき領域では双方の成果が出ていることになった。このような協業領域では、双方にとってメリットのある結論付けを積極的に行っていくことが肝要だ。

 一方、東日本大震災の復興・復旧の渦中にあって、LIBもIT用や自動車用途のみならず蓄電ビジネスへの貢献が期待されている。

 この分野は将来的には世界規模のビジネスに発展していくであろうが、とりわけ大震災に見舞われた日本でのビジネスモデルがいち早く構築されようとしている。

 特に太陽光発電事業との融合が新たなビジネスモデルを創出する可能性がある。

 もっとも太陽光発電事業が盛んな米国の太陽電池企業が中国製の太陽電池との価格消耗戦の煽りを受け、最大手のファーストソーラーが4~6月期が大幅減益、カリフォルニア州のソリンドラ社、マサチューセッツ州のエバーグリーンソーラー社、インテルが出資しているニューヨーク州のスペクトラワット社の3社が経営破綻したことが伝えられている。

 したがって蓄電ビジネスを太陽光発電と融合させるビジネスにおいても、単なる組み合わせの論理で価格消耗戦に巻き込まれないように、付加価値をどのように創り上げていくかが重要な課題となる。

 毎年開催されるこのBAJ総会には電池業界以外に部材業界、装置業界も大勢参加しており、いろいろな交流が図られ大きなビジネスに発展するケースもある。業界のトップや経営陣が主体に集まる総会であるため、今後のエネルギービジネス創りにも効果をもたらすイベントとなっている。

 円高基調の為替問題、地震や津波、台風などの被害が多い災害国日本としての産業拠点機能としてのあり方、さらには原発の信頼性と安全性神話崩壊に対応する今後の新たなエネルギーシステムの構築など、多くの課題がひしめく中で新たなビジネスモデル創りが既にスタートしている。


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