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2011/11/04

<オピニオン>変わる世界情勢と自動車産業への貢献                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から76回までの記事掲載中)

◆多分野進出が企業発展の糸口に◆

 世界の人口が本年で70億人に達した。今後の推移を予測すると2050年には93億人、80年には100億人に達するという見通しである。これからはアフリカ全土とインドの人口が急激に増えていくことになり、世界の情勢が大きく変わっていくことを暗示している。

 このような変化に伴って、特に食料とエネルギー、そして医療分野が大きな課題としてのしかかってくる。

さらにこの分野は現在、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)とも絡んでいることで、人口増加への対応以前に適切な方向への舵取りが日本には求められている。

 アフリカの貧困が深刻な現在の状況下で、今後も人口が増えていくことは更なる貧困層の拡大へとつながることであり、全世界的に見れば食料の絶対的不足は避けられず、現時点から世界規模での食料政策が議論される必要がある。

 食料のグレードも格安系から高級系までと、経済情勢に相応しい柔軟な対応が必要となるだろう。

 医療分野では貧困層での病気の拡大、国境を越えた病原菌の侵入、あるいは新種のウイルス発現なども予測され、人類の叡智をあげた取り組みが期待される。

 エネルギー分野に関して言えば、これも人口増加に適合するあらゆる方策を戦略的に考える必要がある。発電事業は原子力発電の国家間レベルでの協議、再生可能エネルギーの普及と拡大が重要な案件となる。

 人口増加に伴い携帯電話やスマートフォン、PC、自動車、住宅などの需要は増えていく傾向にあるので、これまでとは異なるビジネスモデルの構築も課題となるであろう。

 とりわけ自動車は新興国や発展途上国での低価格車のニーズが増えていく一方、先進諸国を中心にした電動化、すなわちハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車などの新たなパラダイムでの産業構造の新潮流が押し寄せている。

 自動車産業の発展拡大と電動化へのシフトに対する両局面から、サムスングループとしても自動車産業界への貢献を検討中である。サムスン電子のアプリケーションプロセッサ、CMOSイメージセンサ、そして空気清浄システムを始め、サムスンSDIとドイツのボッシュとの合弁会社として発足したSBリモーティブのリチウムイオン電池、サムスン電機のカメラモジュールや充電器、サムスンモバイルディスプレイの有機ELとTFT―LCDやサムスンLED社のヘッドランプ用などのLED、テックウォンのモータやインバータ・コンバータなどがある。

 第一毛織やサムスンコーニング、およびサムスントタルとサムスン精密化学の素材事業なども深く関わっている。素材関連は電動化の潮流とは直接リンクしていない分だけ、既に自動車産業界には関わっており、今後は更なる軽量化・高剛性への貢献などの開発を図る戦略である。

 もっとも自動車用途の部材や素材は使用環境が厳しいだけに、それに応じた開発も必要になる。例えば、リチウムイオン電池では耐久性が10年以上、使用温度範囲は零下30度から60度までの高温領域での性能確保が要求される。ディスプレイでの新たな切り口である有機ELの場合は透過度70%以上、高温の耐久性も電池と同様に要求されるため、ハードルの高い性能開発が必須となる。

 本年10月12日から3日間にわたって横浜で開催された電気自動車関連のイベントであるEVEX展示会とセミナーにおいて、特別招待講演としての場をいただいた。そこで発信した内容は、正に「自動車の電動化におけるサムスンのグローバル戦略」であり、業界の中で広く認識いただくための事業貢献モデルとした。

 自動車業界、素材業界、マスコミからの反響も多くあって、期待が大きいことも実感している。

 これまで日本国内では、サムスンのビジネスモデルや貢献できる範囲に関する説明はほとんど行われてこなかった経緯があるため、その実態が知られていない。したがって今回のような機会を通じて、一層の認知をいただく必要性もある。

 以前は自動車業界に在籍していたことから、業界のニーズや要件に関しては理解しているので開発の可能性や難しさも把握できることから、どこまで関わるべきかの判断もしなければならない。

 これからも様々なイベントを通じて自動車業界への貢献について触れる機会を作り上げるとともに、信頼される製品創りと柔軟なサプライチェーンの構築が重要性を帯びることとなる。

 自動車産業のみならず、多分野へ戦略的に進出することが企業の発展の糸口になることに違いはないが、その発端は的確な戦略構築と人的ネットワークに負うところが大きい。


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