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2012/10/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第33回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第33回

◆重要性増す日本の投資◆

 日韓の政府関係悪化による経済への影響が懸念されたが、現在までのところ影響は限定的にとどまっている。

 最近の動きをみると、「経済関係に致命的な影響を及ぼす事態は避けるべきである」との認識をお互いに有しているように思われる。

 韓国の対日輸出依存度が2000年の11・9%から11年に7・1%(震災前の10年は6・0%)、対日輸入依存度は19・8%から13・0%(10年15・1%)へ低下した。新興国との経済関係が強まった結果とはいえ、これらの数字は韓国にとって、貿易面における日本の重要性が低下したことを示している。

 韓国が日本との経済連携協定を重視しなくなったことや、李明博大統領による「一線を超えた」言動の背後には、こうした両国経済関係の変化がある。

 では、韓国経済にとって日本はさほど重要な存在ではなくなったのかというと、それは誤りである。まず指摘できるのは、低下したとはいえ、対日輸入依存度が依然として高いことである。これは、日本企業が韓国企業の生産に欠かせない基幹部品や高品質素材、製造装置を供給しているためである。

 つぎに、上述の点と関連するが、韓国の産業高度化にとって日本からの投資が不可欠になっていることである。

 韓国政府は対日貿易赤字の削減と自国の産業高度化をめざして、部品・素材産業の強化を図り、その一環として日本企業を積極的に誘致している。これに加えて、近年の日韓を取り巻く環境の変化もあり、日本からの投資が増加傾向にある。

 韓国知識経済部の統計(申告ベース)では、12年1~9月は前年同期比130・6%増となった(日本が最大の投資国)。他方、日本の財務省の国際収支統計(ネット)でも、12年上期の韓国への直接投資額(暫定値)が前年同期比118・3%増と高い伸びを記録した。韓国政府が望む部品・素材分野への投資が着実に増加している。

 日本企業が韓国への投資を拡大させている要因には、供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手および納入先とのコミュニケーションが容易になる、③共同開発を進めやすくなる、③為替変動リスクを回避できることがある。また、韓国政府が自由貿易協定の締結を積極的に進めてきた結果、同国が輸出生産拠点としての魅力を増したことも指摘できる。

 韓国の産業高度化に不可欠な日本からの投資が増加している事実を踏まえれば、政府間関係の悪化によりこの動きにブレーキをかけるのは賢明ではない。この点に関して、日韓関係の悪化が紙面を飾っていた頃、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)のトップが、韓国政府が経済関係にマイナスとなる措置をとることはあり得ないと発言したのが想起される。ある意味で、経済関係の緊密化が政府関係の悪化に歯止めをかけているといえよう。

 さらに指摘したいのは、日本からの投資拡大が次のような効果をもたらすと考えられることである。一つは、対日貿易赤字の縮小である。11年に入って以降、韓国の対日貿易赤字は縮小傾向にある。対日貿易赤字問題は日韓経済連携協定をめぐる政府間交渉(中断)でも争点の一つとなったため、その縮小は交渉再開に向けてプラスに作用しよう。

 もう一つは、日韓の生産分業ネットワークの広がりである。近年日本企業の間で、コストパフォーマンスに優れた韓国製部品や鋼板を調達する動きが広がっている。日本企業による韓国での生産拡大により、この動きがさらに強まる可能性が高い。実際、韓国から日本への自動車部品輸出は総じて増加基調にある(図参照)。

 韓国では来年2月に新しい大統領が誕生する。経済政策面では、これまでの財閥グループに過度に依存した成長からの脱皮がめざされるであろう。部品・素材産業の強化に加え、中小企業の育成が重要な政策課題となることが予想される。このため、日韓関係の重要性はますます高まるであろう。


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