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2012/02/10

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ 第24回 日本の電機産業に不振をもたらしたのは韓国?                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆追われる韓国勢も明日は我が身◆

 日本電機大手の2012年3月期の決算見通しが出揃った先週、日本メディアの至るところに「韓国勢」という言葉が踊っていた。巨額の赤字となった大手電機メーカーは、その主要原因として薄型テレビの販売不振をあげ、特に韓国勢との競争で負けたとしている。日経産業新聞では、00年から11年までの12年間に、日本の電機大手6社の損益を合算して2000億円を越す赤字だったと明らかにし、「デジタル敗戦の2000年代」とまで表現した。

 確かにサムスンといった韓国勢は、世界テレビ市場で1、2位とトップを握り、合計25%以上のシェアを持っている。薄型テレビでの韓国勢の躍進は、韓国政府の積極的な育成政策をベースに、液晶パネルなど主要部品の量産が出来るよう、莫大かつ果敢な投資を行った結果である。今は、世界の液晶パネルの約40%、金額ベースでは50%以上を韓国のサムスンとLGディスプレイが生産している。液晶パネル産業の繁栄は川下のテレビ産業において、競争力の源となった。品質が良く、最先端のパネルをいち早く自社のテレビに組み込むことができるのだ。内製だけではなく、一つの部品事業として液晶パネル事業を立ち上げたのも見事な選択である。当時、世界1位のテレビメーカーであったソニーを顧客として確保し、初期投資のリスクも分担させた。あいにく、そのソニーはテレビ事業で8年連続の赤字を出して、10年にはLG電子にも抜かれ世界3位のメーカーとなったが、サムスンは世界1位のテレビメーカーとなった。

 もちろん、LED(発光ダイオード)テレビといった技術的戦略も時代の流れにうまく乗った。日本のテレビメーカーが直下型LEDバックライトにこだわっていたため、市場で受け入れられる価格のLEDテレビはできなかったが、サムスン電子では、LEDの数を格段に減らしたエッジ型LEDバックライト方式のLEDテレビを作り出した。09年、市場は省エネや環境問題に厳しくなり、価格も手ごろだったことから、LEDテレビブームといえる程になった。11年、液晶テレビの約4割(8800万台)がLEDテレビになり、12年は6割近くまで増える見通しだ。LEDテレビでも、サムスンとLGのシェアは高い。

 もう一つ、韓国勢を思い出させるテレビは3Dテレビである。3DテレビではLG電子のFPR方式を賞賛すべきである。もちろん、サムスンのシャッターメガネ方式との激しい技術論争やマーケティング競争があったため、この紙面ではどちらがいいとの話は避けよう。ただ、LG電子のFPR方式の3Dテレビはデザイン性に優れていて、価格も安く、市場拡大に大きく寄与していることだけは話しておきたい。

 韓国テレビメーカーが日本メーカーより、シェアも大きく、市場をリードしているのは事実である。しかしながら、11年のテレビ事業の業績で言えば、その韓国勢もすべて赤字の苦労を味わっていることも理解していただきたい。世界で2番目の規模のテレビ市場である欧州の経済情勢は韓国のテレビメーカーにとっても、その厳しさは日本メーカーと変わらない。

 さらに、先進国経済の影響で新興国も輸出不振となっており、テレビは安物ばかり売れる状況である。それでは、テレビの台数は増えても、利益はあまりない。世界で最もテレビが売れている中国では、ローカルメーカーがすでに7割以上のシェアを握っており、グローバルブランドの立場はますます弱化しているのだ。

 このように、韓国メーカーも12年に実績回復を期待すべく、事業の見直しや戦略の修正などが行われているのは日本勢と同じ状況である。むしろ、為替の優位性が変わり、円安ウォン高になれば、突如市場の地位は変わるかもしれない。日本と韓国は、共に主要輸出品目としてテレビを作っている。薄型テレビ以前は、ソニーの「トリニトロン」など、日本製テレビは日本が誇る「ものづくり」の産物として、全世界の人に愛された。日本の大手電機メーカーは、すべてがテレビを作り、売上のボリュームも利益の幅も大きいため、業績を伸ばすことができた。さらに、日本のテレビ産業の進歩によって日本のエレクトロニクス産業は、いまだ世界の最先端を走っている。

 しかし、時代は変わり、薄型テレビという商品は、誰もが作ることこができる汎用品(コモディティ)となり、付加価値を失いつつある。

 テレビで売上幅や利幅が保障できなくなった時代に、日本の電機メーカーの選択肢はいくつあるだろうか。まず、テレビ事業の見直しでシェアより収益を重視しようとすると思われる。そこで、テレビ事業の縮小やリストラなど、マイナス方向の展開が予測される。しかし、それにも関わらず、テレビ事業ほどの魅力的なアイテムは他にあるのかと考えた場合、余りないようである。

 ソニーの新社長は、テレビを家庭におけるエンターテインメントの中心として、ソニーの力量を注いでいく主力事業だと話している。やはり、テレビ以上の商品はないのだろうか。しかし、日本のテレビメーカーが業績を回復する方法はどこにあるのか。

 韓国メーカーもいつか世界市場の相当部分を中国メーカーに奪われると考えている。いま、日本メディアがかつての日本テレビメーカーの繁栄を懐かしく惜しがるように、近い将来、韓国メディアも韓国テレビメーカーの繁栄を懐かしむことになるかもしれない。


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