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2012/01/01

<オピニオン>アナリストの眼 「部品・素材の日韓協力進展」                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。

 韓国政府は部品・素材産業の強化をめざして、日本企業を積極的に誘致している。こうしたなかで現地生産を計画する日本企業が増加しており、この動きが今後の部品・素材産業の成長につながると期待される。

 韓国の対日貿易赤字は古くて新しい問題である。日韓経済連携協定締結に向けての政府間交渉が中断したことにも、この問題が影響している。かつては対日輸入規制で赤字の削減が図られたが、2000年代に入ると、①韓国国内の部品及び素材産業に対する技術開発支援②韓国企業の対日輸出促進③日本企業の誘致ならびに韓国企業との提携促進など、拡大均衡を目指す方向に変化している。

 2010年の対日貿易赤字額は過去最高の361億㌦となった。対日貿易赤字は、輸出生産に必要な生産財を日本から大量に輸入していることに起因する。これまでの産業発展の過程をみると、①日本で新製品が開発され、量産化段階に入る②韓国が技術導入を行ってキャッチアップする③大規模な投資を通じて韓国が量産基地になるというパターンが繰り返された。

 こうした動きは生産財でもみられる。半導体や液晶パネルの現地生産化に伴い素材や基幹部品、製造装置などが輸入され、製造装置や基幹部品の一部が現地で生産されると、それに必要な素材、構成部品が輸入されるという具合である。

 05年と10年における日本の対韓輸出品目構成を比較すると、電気機器の構成比が低下し、化学製品(有機化合物、プラスチックなど)と原料別製品(鉄鋼、非鉄金属など)の構成比が著しく上昇している。電気機器の低下は、半導体等電子部品と科学光学機器(液晶パネルを含む)が減少したことが大きい。また金額は小さいが、音響機器も減少した。これらは現地生産が進んだか、日本製から韓国製へのシフトが進んだことによる。

 輸出が急増したのはプラスチックや鉄鋼などの素材である。韓国では生産できない高機能素材が輸出されている。

 韓国政府が近年「部品・素材専用工業団地」を設置して、部品・素材産業の誘致を図っているのにはこうした背景がある。

 注目されるのは、韓国政府が望む高機能素材、基幹部品、研究開発分野での投資がみられることである。

 その代表例は、東レによる炭素繊維工場の設立(13年稼動予定)である。炭素繊維に関しては、日本企業が世界シェアの約7割を占める。これまで日本で生産してきたが、韓国に工場を設立するのは、生産コストの低さに加えて、韓国に炭素繊維を使用する自動車や造船産業が発展していることによる。また、液晶パネルにつぐ表示装置として成長が期待される有機ELパネル関連での投資計画が相次いでいる。製造装置メーカーのアルバックが研究開発拠点を設置するほか、宇部興産は樹脂材料の生産を計画している。

 日本企業が韓国での生産に意欲的になっているのには、以下の理由がある。日本企業はサプライヤーとして、韓国企業の生産に欠かせない基幹部品や高機能素材、製造装置を供給してきたが、供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手及び納入先とのコミュニケーションが容易になる③共同開発を進めやすくなる③円高によるコスト上昇を回避できるなどの効果が得られる。

 グローバルでの競争が激しくなっているため、サプライヤーにとってもこれまで以上に、納期の短縮と生産コストの削減が求められている。

 日本企業の対韓国投資に水を差しかねないのが、金正日総書記死去後の北朝鮮情勢である。北朝鮮情勢の不透明さや朝鮮半島の緊張が増せば、ウォンの急落や韓国企業への発注がストップする事態も予想される。その一方、安定した指導体制が確立し、破綻した経済を立て直すために「改革・開放政策」に大きく舵を切れば、韓国企業、日本企業に新たなビジネスチャンスを提供するだろう。

 こうした観点から12年の韓国の動きをみていく必要があろう。


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