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2012/03/30

<オピニオン>経済・経営コラム 第42回 現代とトヨタ、世界での攻防に注目せよ                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

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    現代主力車種アバンテ

◆現代の躍進、トヨタの反転攻勢◆

 2012年、トヨタ自動車の全世界での反転攻勢が始まった。目標販売台数は史上最多の958万台で11年比プラス20%、目指すのはGMとVWを超えて世界一の奪還だろう。現代自動車は、700万台(前年比プラス6%)を目標に第5位のポジションの盤石化とさらに上を狙うための雌伏の一年にすると宣言した。トヨタは現代を、現代はトヨタを、それぞれ最大のライバルとしているに違いない。世界3位と5位の日韓のトップ企業同士による世界中での攻防が、自動車市場の世界の勢力図をどう変えていくのか。

 トヨタにとって、本当に「お気の毒」な3年間だった。アメリカに端を発した全世界での数百万台のリコールは身から出た錆(さび)だが、GM復活の時間稼ぎとなった「プリウス」の技術欠陥への言いがかりとも言えるようなアメリカでのトヨタたたきによって、トヨタの品質神話が大きく傷ついた。それが癒える間もなく、東日本大震災とタイの大洪水の影響で国内外の部材の供給網が寸断され、全世界で完成車の供給が不足した。

 この機会損失も含めて、世界での販売台数は、10年の842万台から11年には795万台へ47万台減少した。3年間続いた世界一のポジションから3位に下がった。過去最高だった07年の937万台からは142万台も減った。今年は完全復活を期している。

 一方の現代自動車は、08年のリーマン・ショックのネガティブ・インパクトも軽微で済み、07年の397万台から4年間連続成長しプラス263万台の販売増を積みあげて、11年には660万台を販売した。10年からは世界5位につけている。欧米ではトヨタやホンダの低迷をしり目にシェアを伸ばした。

 トヨタの全世界での近年の不振は、上のような「お気の毒」要因や、超円高・ウォン安の為替要因がその大きな理由だが、それ以上にトヨタの現地対応・現地目線での商品開発やマーケティングが不足だったこと、そしてその革新のスピードの遅れが本質的な原因だと思っている。なぜなら、トヨタの真逆の成功例が、現代であり日産(日産ルノー)なのだ。日産のフットワークの軽さ。日産は、現代と同じく、リーマン・ショック後にも全世界で販売台数を伸長させ、世界4位に上った。とくにBRICsでの伸長が著しい。東日本大火災やタイの大洪水によるSCNの分断の被害を受けたが、日産とルノーが協力して、いち早く全世界のSCNを最適化させて、10年の671万台の販売を11年には740万台へ押しあげた。中国では100万台を突破して、日本勢のトップに立ち、GMとVWに次いで、現代と3位争いの最中である。ブラジルでも、現代とアジア勢の中での首位を争っている。初めて車を買う消費者が大多数の中国では、支払い可能な値段付けはもちろんのこと、それに加えて、競合社に比べて「大きく・立派」に見えることが必要だ。車はステータスであるのが中国の消費者の心理である。安くて便利がブラジルの消費者のニーズ・ウォンツだ。日産はその消費者に、いち早く丹念に対応して成長している。

 現代は近年、先進国市場向けと新興国市場向けの二面戦略を展開して成長を続けている。欧米では、今までは「日本車の二番手モデルで価格を安く」の戦略で日本勢の足元を切り崩すことに専念していたが、そのゲリラ戦略から脱皮して上級移行に転換した。つまり、「日本車と同等かそれ以上の品質と同等の値段」でしかも「見映えするデザイン」を前面に出して正面攻撃をしかけ、トヨタやホンダを追い詰めつつある。欧州では既にトヨタのシェアを上回り、ホンダや日産を引き離している。アメリカでは、トヨタとの差を縮めながら、日産を抜きホンダと肩を並べた。

 新興国では、現代が日産の現地対応・現地目線戦略の先達である。現代に学んだ日産が、日本勢の中で一番成長のスピードが速いのだ。

 ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)が、アメリカでは日本ほど神通力を持たない。それでもトヨタの最大の優位性はHVとPHV(プラグインハイブリッド)にある。GMやフォードが間もなく発売するHVとの競争が始まるだろう。また、量販車である「カムリ」「カローラ」の新モデルで、デザインの新規性や技術の優位性で現代の「ソナタ」や「エラントラ」に移った消費者を引き戻さなければならない。アメリカ勢(とくにGM)、欧州勢(とくにVW)、そして現代も環境分野と量販車分野で、トヨタの巻き返し戦略に強力に対抗してくるに違いない。

 中国では、入門車として「購入しやすい価格で、かつ、大きくて見栄えのあるデザイン」を投入して、徹底した広告・販促支援が必要だ。納車待ちではなく、販売店頭からすぐ運転して帰りたい消費者がほとんどだから、つねに配車しておくことが肝心だろう。インドでは現地開発の小型車「エティオス」の人気が鍵だ。

 ブラジルでは、これまでの高所得層をターゲットにした、250万円もする「カムリ」ではなく、中間層が求めている初めての車を、つまり、彼らが「欲しい」車種を1000㏄クラスで「支払い可能な」値段は150万円標準で、提供する必要がある。現代はこの現地の消費者が求める車種を、現地の人たちが買える値段で提供し、大量の広告投下量で知名度を高めシェアをのばしている。トヨタが、一刻も早く現地の消費者を理解した戦略へ転換すること期待している。


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