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2012/04/20

<オピニオン>転換期の韓国経済 第27回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第27回

◆緊密化が期待される日韓経済関係◆

 グローバル化が進むなかで、日本と韓国との経済関係に注目すべき動きがみられる。韓国が投資先としての魅力を高めていることは以前指摘したが、それが統計として表れていることである。

 財務省の統計(国際収支ベース、ネット)によれば、2011年の日本の対韓直接投資額(暫定値)が前年比124・1%増となった。

 韓国知識経済部の統計(申告ベース)では、11年は前年比9・5%増にとどまったが、今年1~3月期は前年同期比150・3%増となった(下図参照)。

 注目したいのは、製造業分野で投資が著しく増加したことである。日本企業が韓国を生産拠点にする背景には二つある。一つは、日本企業の納入先として韓国企業の存在が大きくなったことである。韓国企業は2000年代に入って以降、輸出や現地生産などを通じてグローバルな事業展開を加速させた。

 日本企業はサプライヤーとして、その生産に欠かせない基幹部品や高機能素材、製造装置を供給してきたが、供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手および納入先とのコミュニケーションが容易になる、③共同開発を進めやすくなる、③円高によるコスト上昇を回避できるなどの効果が得られる。

 もう一つは、韓国政府がFTA(自由貿易協定)の締結を積極的に進めてきたことである。EU(欧州連合)とのFTA(11年7月1日暫定発効)に続き、米国とのFTAが今年3月15日に発効した。これにより、韓国で生産し「韓国製」として輸出した方が、EUや米国市場へのアクセスで有利となる。

 また、日本国内の流通コストの高さを考えれば、韓国から日本への輸出も魅力的となる。韓国企業が生産能力を拡大しているほか、金利差などから考えて当面「超円高」の大幅修正が見込めないため、日本の対韓国投資は増加基調で推移するものと予想される。

 つぎに注目したいのは、韓国の対日輸出が伸びるなかで、韓国企業による日本市場再挑戦の動きが出ていることである。11年の日本の対韓輸入額(財務省統計、ドル建て)は前年比39・1%増となった。

 東日本大震災後の電力不足を受けて石油製品が急増したことによるところが大きい(寄与度16・3%)が、鉄鋼、通信機、食料品の寄与度もそれぞれ4・7%、3・9%、1・5%となった。

 韓国製スマートフォンやタブレット端末、マッコリ、オククス(とうもろこし)茶などは日本人にとって身近になった。日本市場再進出の動きをみると、LG電子が10年秋、家電市場へ再参入したのに続き、サムスン電子が薄型テレビ市場に再参入する予定である。現代自動車もトラック分野での参入を検討していると報じられている。

 韓国製品がこれまで日本市場に浸透できなかった要因には、①高級品分野ではブランド力のある欧米製品が、低中級製品では価格競争力のある中国製品が競争上優位にあること、②日本にはアジアで製造された日本企業製品が多く輸入されており、価格・品質面で韓国製品がこれを上回るのは容易でないこと、③一定の年齢層において、韓国製品に対する「安かろう悪かろう」というイメージが払拭されていないことなどがある。

 今日の韓国製品はかつての韓国製品ではない。韓国企業はグローバル市場で揉まれながら、品質の改善、デザインの向上、ニーズに合う商品つくりに取り組んだ。その結果、コストパフォーマンスで日本製品を上回ったばかりではなく、機能やデザイン面で日本製品よりも優れた製品が登場している。この点は欧米市場で実証されている。

 今後注目されるのは有機ELテレビである。有機ELは液晶パネルよりも高精細で消費電力が少ないという利点をもち、サムスン電子とLG電子は年内に有機ELテレビを投入する予定である。マーケティング次第では、スマートフォンに続き、日本で成功をおさめる可能性は十分にあろう。

 こうした日韓企業の進出により、両国経済関係が一段と緊密化することが期待される。


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