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2012/06/01

<オピニオン>韓国経済講座 第140回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第140回

◆産めよ!増せよ!◆

 「人口保健福祉協会が18日、国連人口基金(UNFPA)と共同で発刊した「2009世界人口現況報告書―韓国版(186カ国)」によると、韓国の合計特殊出生率は世界平均(2・54人)の半分を下回る1・22人だった。ボスニア・ヘルツェゴビナ(1・21人)に次いで世界で2番目に低い」と言う衝撃的な記事が紙面を飾ったのは、3年前の09年11月19日(中央日報)であった。

 韓国の少子高齢化は極めて深刻だ。長期人口動態の変化をみると棒グラフ最下層の若年従属人口(0歳~14歳)は05年から20%を割り込み40年代には10%台に突入する。その頃は30年の総人口5216万人のピークから減少局面に入り5109万人の内、若年従属人口は571万8000人となる計算で、12年の589万人より17万2000人減少となる。しかも、高齢化は周知のように世界一の速さで進行しており、12年の老齢従属人口(65歳以上)の比率は11・8%であるが、40年には30%を上回り、生産年齢人口(15歳~64歳)の比率も57%と60%を割り込む。

 人口動態が、経済活動に労働要因として作用することは知られており、労働過剰状態の時期を人口ボーナス《生産年齢人口÷(年少人口+老年人口)の比率が2以上の数値となる状態》と呼び、この状態は1987年から2025年の期間だ。戦後日本の高度成長の一要因ともされている。この間は労働力供給に余裕がある就業機会増大期であるため、韓国もあと十数年間は雇用機会の増大を図らなければならない。30年代を過ぎると人口ボーナス期は終わり、人口オーナス期に入る。この状態は高齢化の進展で、人口構成が経済活動の重荷となる。つまり生産年齢人口比が2倍を割り込み60年では生産年齢人口と従属人口の比は1対1の「肩車状態」になるのだ。

 2000年代に入り、年齢別の出産率の主役は20代後半から30代前半に移り晩婚化、晩産化に拍車がかかっている。離婚率の高いことも看過できない。

 世界一長い労働時間に参加する女性には、出産、育児、教育などに割く時間はない。出産適齢より仕事適齢期である。また間接費用(出産・育児期間に失う見かけ所得)が高まった社会では晩産化、無産化は必然かもしれない。このような社会で少子化を食い止め増産化へ転換するのは容易ではなく、統計庁は30年の5216万人を頂上に60年には4396万人へと人口が減少すると予測している。

 少子化問題は、ある意味こうした思想から抜け出る発想が必要だ。そのためには、国家の支援、企業の制度、家計の努力が欠かせないが、それぞれ未だ成功思想の呪縛に縛られている。しかし、国家レベルでは李明博政権から創設された大統領直属の諮問機関、未来企画委員会において少子化対策が練られている。ちなみに同委員会は国家未来戦略を検討するシンクタンクとして、「21 世紀型の集賢殿(高麗と朝鮮初期に宮中に設けられていた学問研究機関)」を目指しているそうである。「保育費軽減」と「人口増加」を政策軸として、教育科学技術部などの関連部署を巻き込み少子化対策に取り組んでいる。11年から始まった第2次少子高齢化基本計画の核心は仕事と家庭の両立の日常化である。

 企業レベルでも柔軟勤務制や育児休職制を施行しているが、導入コストが高いことや社員が利用しにくいことでその普及率はそう高くない。女性政策研究院によれば柔軟勤務制と育児休職制を導入した企業はそれぞれ20%と50%水準にとどまっていると言う。成功思想の企業文化は依然呪縛されている。家庭では、直接費用(養育・教育費用)と間接費用、さらには住宅費用の高騰、核家族化進行など家庭で働く女性が育児をする環境は、特に都市部では悪化している。

 それでも、10年には合計特殊出生率が前年の1・15から1・23にごく僅か改善した。この比率は2・08で親子の世代が同数で入れ替わるとされる理論値であるが、韓国が少子化を食い止めるには未だ程遠い。少子化先進国のフランス、イギリス、スウェーデンなどは長期的にこの値を上昇させてきた。韓国は、政府・起業・家庭が早く呪縛から抜け出し、増産体制に移行すべきだ。


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