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2012/09/07

<オピニオン>ビジネスモデル創出                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から86回までの記事掲載中)

◆ネットワーク使い多方面で実践◆

 先月8月末でサムスンでの業務歴は満8年に達した。振り返って見れば、日本人であること、そして自動車業界、電池業界、素材業界、大学や研究機関との特有なネットワークをもっていることでのビジネスモデル創りは、多方面で実践できた自負がある。

 1.素材メーカーとのビジネス戦略創りと量産への適用、②合弁会社設立、③電池工業会との関わりによる日韓協業と国際標準化、④自動車業界との橋渡しによる自動車産業界とのビジネスモデル構築、⑤大学や研究機関との交流による活動、⑥国際会議や展示会におけるプレゼンスの向上、⑦講演会を通じたネットワーク発掘とビジネスへの連携、⑧韓国文化の理解による仕事の流儀伝達、⑨情報取集ルート開拓、⑩人脈創りの活性化などがあげられる。

 一つずつ事例をあげると、①においては8月の記事でも触れたが、素材メーカーとの対等な関係構築による信頼を柱に、新たなサプライチェーンを創り上げ、性能向上やコストダウンを実現したこと。これはリチウムイオン電池において実践したが、アプリケーションの多様性が拡大しているこの電池においては更なる展開も可能である。

 ②では、リチウムイオン電池における正極材料メーカーである戸田工業との共同戦略によりサムスン精密化学との合弁設立(11年3月)、③では電池工業会への賛助会員入会から始まり、韓国電池研究組合との橋渡しによる交流開始と昨年11月に設立された韓国電池工業会との協力関係の構築。さらには、08年3月からスタートした日韓によるリチウムイオン電池の安全性試験法国際標準化における共同戦線での協業である。

 ④では10年8月にスタートした戦略であるが、サムスングループが自動車産業にデバイスや部材事業で貢献するビジネスモデル創りに大きくかかわり、日本の自動車産業との交流の突破口を開いた。リチウムイオン電池の他に、車体素材やLED、CMOSカメラなど幅広いビジネスモデルが可能となるよう、各社にて大規模展示会を開催するなど、サムスンの認知度を高めた。従来型の担当ベース間協議では展示会開催まで年単位の時間が必要となるところを、経営トップ層との人的ネットワークを通じて数カ月で実現に結びつける戦略に出た。

 ⑤では日本の大学や研究機関との関わりも強くもつべく、共同研究の実施、韓国国家プロジェクトへの諮問委員としての招聘を行い日韓交流に一役買った。

 ⑥では国際会議への参加と講演、あるいは国際展示会などでの開会式リボンカットなどに出席することで経営陣との新たな交流の機会が増え、ネットワーク拡大の一助ともなった。そこからビジネスに発展したケースもある。

 ⑦は外部からの講演依頼が来た際に、主催側の信用度、対応した場合の効果などを吟味したが、経営層が集まる講演になればなるほどインパクトを与えることが出来、そこからまた新たなネットワークが育まれている。その効果を十分に理解すれば、このような機会を失することは勿体ない。常にポジティブに考えた付き合いが有効である。

 ⑧では日本のビジネス慣習との違いが生じるところであるが、韓国の文化を理解していないと難しい部分である。日本では担当レベル間での協議からどんどん上に上がっていくプロセスが多く、そして好まれるものだから日本の企業の多くは韓国でも得てしてこの手法をとりたがるし、とっていれば十分と感じているようだ。

 ところが韓国では必ずしもそうではなく、概してトップダウンの業務指示の方が早く進む。上からの指示があれば業務テーマとして正式に認められたことになり、担当者は心血を注ぐが、そうでなければ話半分くらいでのお付き合いしかできないのが実状。

 したがって、よく日本企業の経営陣が嘆いていることは「なかなか進まない」という共通な表現である。すなわちコンタクトパーソンの選択ミスマッチが生じること、日本から役員が出向く際にはサムスンの役員との面会が重要な意義があることを伝授してきた。実際に、多くの日本企業のこのような嘆きに対し対応案を説明し実行に移してあげたら、従来の進みと全く異なったということを常に聞いている。

 ⑨でも人的ネットワークと信用が効果を発揮するわけで、そのためにもギブ&テークの基本を貫く必要がある。この信頼関係は一朝一夕にはできないことなので、地道な努力も必要だ。

 ⑩では人脈はいくらあってもあり過ぎということはない。人脈が人脈を発展させることも事実で、社内外、とくに社外交流、異業種交流も有効な手法である。真の価値ある人脈は困った時にどれだけ相談にのっていただけるかで決まる。そして自分が逆の立場になった場合でも同様である。グローバル社会でのビジネスを考えると人脈のグローバル化もますます重要になってくる。


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