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2012/09/28

<オピニオン>韓国経済講座 第144回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第144回

◆記念すべき年◆

 今年は10年に一度の記念すべき年である。今から20年前の中国の楊尚昆国家主席、韓国の盧泰愚大統領時代の1992年8月24日、北京の釣魚台国賓館で李相玉外務相と錢其琛外交相が「中韓外交関係の樹立に関する共同声明」に署名し中韓の国交が樹立した。さらに20年前の72年9月には、周恩来総理(当時)が田中角栄を招待すると言う形で日本の総理大臣の訪中が実現し、9月29日、北京で行われた「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」(日中共同声明)の調印式において、田中角栄、周恩来両首相が署名し日中の国交正常化が成立した。さらに時代を20年遡り60年前の52年9月3日は中国東北部に暮らす朝鮮族の居住地が延辺朝鮮族自治州として成立した年である。20年毎に遡れば今日の東アジアの交流が始まった年に辿り着く記念の年が今年なのだ。

 ところで、今年自治州成立60周年を迎えた延辺は大きな変化の渦中にある。最も大きな理由はこれまで不足してきた資本が現行の第5規画(11年~15年)において大量に投資されているからだ。

 60周年記念行事に合わせたインフラ工事が特に目立つ。河川の周辺では川沿いの道や公園が整備されグリーンベルト地帯が生まれている。道路工事はいたる所で行われているが、幹線道路の整備は既に終わり目立つのは住宅地に隣接する生活道路工事である。生活道路はこれまで投資されておらず、石畳もあちらこちらで浮き上がったままであった。

 多くの住民は高層アパートに暮らしているが、今年市内のアパートのほとんどを市政府が資金を投入し外壁工事と外窓の取り換え工事を行っている。無数にあるアパートが軒並み工事現場となり、建てた時以来そのまま使われていた古びたアルミサッシの窓が新品に入れ替えられている。その代わり内窓は居住者の負担で変えなければならないことが条件だ。各家庭は最低でも5000元から7000元の強制支出だ。窓が交換されると、黒ずんだ外壁の上塗り部分が削り剥がされ、薄くコンクリートを塗った後でその上に発砲スチロールの断熱材が張られ、さらにコンクリートで上塗りし、最後にペンキが塗られ外壁が新品状態になる。こうした工事が町中で行われ古びた町並みが一新しつつある。

 極めつけは町中のライトアップ工事である。数年前には限られたビルやネオンサインで街の夜景が作られていたが、今年はほとんどすべての建物にライトをつけ、ビルの外観はもちろんのこと壁面に描かれた民族衣装をまとった人の姿やさまざまな模様のネオンが鮮やかな姿を描き出している。

 こうしたインフラ工事は町並みだけではない、自治州で最も有名な白頭山(張白山)にも及んでいる。白頭山は朝鮮民族の心の故郷とされ、中国と北朝鮮にまたがり、山頂にある天池は昔から朝鮮民族の聖地とされてきた。しかし山頂へ上るには、車がすれ違うのにもやっとの道幅で勿論ガードレールもなく、荒っぽい運転でスピードを出す登山専用車に乗っていてもいつもハラハラドキドキだ。

 今年に入り登山道の再舗装工事が行われガードレールの取り付け工事も行われている。これまでも登山環境が少しずつ改善されてきたが、資金投入の結果、一挙に観光地としての安全性確保も含めた整備が行われているのだ。

 このような大きな開発工事はこれまでにもなかったことである。一説によると60周年行事に合わせて、民間企業、資本家から資金を捻出しそれで工事に取り掛かり、後で中央政府から60億元が投入されると言われている。こうした工事により雇用、資材・機械需要が急増している。掲げた表を一瞥して目立つのは05年から11年までの急成長ぶりである。人口以外の全ての項目がこれまでのトレンドをはるかに上回る実績を見せている。GDPはこの間2・7倍強、財政収入3・5倍、財政支出2・3倍、投資総額3・2倍、最終消費2・4倍などこの間異常成長を見せている。自治州のここ数年のこうした急成長は、次の段階で日中韓経済交流における中国東北地方の玄関口として注目されよう。


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