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2013/11/29

<オピニオン>深読み韓国経済分析 第11回 脱原発超えたエネルギー政策を                                                      リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

  • リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し、96年東洋大学経営学部卒業。96年現代証券入社、97年から現代証券東京支店駐在、07年韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、10年投資銀行本部長、11年代表取締役専務、12年7月代表取締役社長に就任。

  • 深読み韓国経済分析 第11回 脱原発超えたエネルギー政策を

◆依存度縮小への取組みが必要◆

 「原発即ゼロ」。最近、小泉純一郎元首相の脱原発発言が話題だ。その発端となった2011年の東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所事故は日本だけでなく、原発を継続し今後も拡大しようとする多くの国に大きな衝撃を与えた。このまま原発を継続しても果たして大丈夫なのか。原発事故をきっかけに高まった原発の安全性に対する危機感から、世界約31カ国では原発の安全性を徹底的にチェックする他、原発建設計画を見直す動きも出てきている。ドイツやスイスの場合、福島原発の事故後、現在稼働中の原子炉をすべて廃炉し、今後は太陽光や水力、風力などの再生可能エネルギーで代替していく「脱原発」方針を固めたという。

 脱原発に向けた動きがみられるのは、韓国も例外ではない。今年10月、国家エネルギー基本計画を策定する国家民官合同ワーキンググループが政府に提示した2次計画では、原発の比重を2035年まで22~29%へ縮小するという内容が示されていた。この計画は、30年まで原発の比重を41%まで拡大することを目標とした李明博前政権の1次エネルギー基本計画の数値を約半分も減らしており、今後韓国のエネルギー政策が大きく変わることを意味する。

 福島原発事故の恐ろしさは、明らかに韓国内で脱原発に向けた大きな流れを作った。さらに、今年5月末に原子力発電所に使われる部品の書類が捏造されていた事件で生まれた安全への不信感もまた、その流れを加速させた。

 小泉元首相が提唱する「原発即ゼロ」や世界各国における脱原発の動きなど、今反響を呼んでいる原子力発電は、国家のエネルギー政策と経済において一体どんな存在なのか。原発は低いコストで大量の電力を生み出すことが可能であり、一度燃料を補充すると1年以上は交換する必要がない。また、二酸化炭素の排出がほとんど無い。このように、原発は原油や液化天然ガスなどによる火力発電に比べると、経済と環境の面で効率性に優れているといえる。韓国や日本のように資源が少ない国の場合、エネルギーを生産する原料の大半を海外から輸入することを考えれば、経済的メリットの多い原発が魅力的なのも当然である。

 しかし、原発の経済的魅力がいくら大きくても安全という要素に少しでも不安点があれば、その実用性と将来性は一瞬で崩れてしまう。昨年、日本の原発事故評価プログラムであるセオコード(SEO code)で行った模擬実験では、韓国の古里原子力発電所1号機から放射能漏れがあった場合、最大85万人以上の死亡者が発生し、その経済的被害は約628兆ウォンに達するとの結果が出た。

 事故や災害により安全性を失った原発がもたらす被害は、経済的損失だけで終わらず人々の命や生活まで脅かすものになってしまうのである。このような点を考えると、「原発即ゼロ」を叫ぶ小泉元首相の気持ちが分からなくもない。では、エネルギー政策において「脱原発」は最善の策なのか。ほとんどのエネルギー資源を海外からの輸入に頼る韓国や日本に、脱原発はそう簡単ではない。それに、環境問題でこれ以上火力発電を増やせない状況の中、開発と実用化に時間がかかる水力や風力など、再生可能エネルギーを確保するのも容易ではない。それでもやはり我々が向かうべき目的地は脱原発だと考える。

 「原発即ゼロ」は難しくても、電力節約や電力料金の見直しなど、政府レベルでの取組みをはじめ、原発に代わる経済と環境にやさしいエネルギーを育てながら原発への依存度を縮小していくことは何より必要である。(おわり)


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