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2013/08/23

<オピニオン>転換期の韓国経済 第43回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 転換期の韓国経済 第43回

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第43回

◆問われる政策の方向◆

 韓国では景気悪化への警戒感が薄らぐ一方、中長期の課題に対する政府の取り組み姿勢が問われている。4―6月期の実質GDP成長率(前期比、以下同じ)は1―3月期の0・8%を上回る1・1%(速報値)となった。1%台は実に9四半期ぶりである。輸出が前期の3・0%増から1・5%増、固定資本形成が3・8%増から1・9%増へ減速したが、民間消費が▲0・4%から0・6%増、政府消費が1・2%増から2・4%増へ加速した。固定資本形成に関しては、昨年まで低迷していた建設投資が前期の4・1%増に続き3・3%増と回復傾向にあるのに対して、設備投資は▲0・7%と再びマイナスに転じた。

 6月に政府が今年の経済成長率見通しを、3月時点の2・4%から2・7%へ上方修正したように、景気悪化への警戒感は薄らいだ。ただし4~6月期の成長加速は景気対策によるところが大きく、民間需要の回復には力強さが欠けていることに注意したい。景気の先行きを展望する上で、今後次の二点に注目する必要があろう。

 一つは、設備投資の動きである。前年同期比でみると、設備投資は5期連続でマイナスとなっている。これには内外需の減速以外に、政策の影響が指摘できる。

 小売分野では2012年に入って、「大企業と中小企業の共生」を図る観点から、大企業に対する規制の動きが広がった。朴槿惠政権誕生後も、公正な市場取引を実現する目的で下請法が改正されて、親事業者が下請会社に対し不当な発注取り消し、返品、買い叩きなどにより損失を与えた場合、下請け会社が当該損失額の3倍に相当する額を親事業者に賠償請求できるようにした。

 財閥グループの影響力が大きいため、大企業に対する規制は必要であるが、「大企業と中小企業の共生」、「経済民主化」という大義名分の下で規制が強化されて、これが企業の投資を委縮させている面もある。投資の委縮は、朴槿惠大統領が重視する雇用創出にマイナスの影響を及ぼす恐れがある。

 もう一つは、住宅市場の動向である。12年9月に景気対策として、①住宅をはじめて購入する場合、取得価格9億ウォン以下の場合に不動産取得税率を現行の2%から1%に引き下げる、②取得価格9億ウォン以上あるいは住宅を複数戸購入する場合には同税率を現行の4%から2%に引き下げる、③売れ残り住宅物件を年末までに購入する場合、譲渡所得税を5年間免除するなどが打ち出された。

 当初は12年末に終了予定であったが、13年6月まで延長された。これにより取引件数は増加したが、終了後の7月に急減するなど反動が表れている。

 朴槿惠政権も「住宅市場の正常化に向けた総合対策」として、譲渡税免除の対象となる条件を広げたほか、住宅をはじめて購入する者(夫婦合計の所得が年間6000万ウォン以下、住宅専用面積85平米以下)に対する取得税免除などを打ち出したが、どの程度の効果をもたらすかは未知数である。

 景気悪化への警戒感が薄らぐ一方、中長期の課題に対する政府の取り組み姿勢が問われる事態が生じた。政府は福祉拡充などの公約実現に向け、8月上旬に税法改正案を公表したが、年間給与所得が3450万ウォンを超える勤労者(全体の28%)の税負担を増やす内容となっていたため、国民から多くの批判をまねき、再検討を余儀なくされた。

 朴大統領はこれまで福祉を拡充する財源を、非課税・減免分野の縮小、地下経済の「あぶり出し」、政府支出の構造調整などで捻出するとして、増税に言及してこなかったことから、「公約違反」との声が相次いだ。

 また勤労者に対する増税を実施すれば、家計の負担が増大し消費にマイナスとなるため、政府の認識の甘さが指摘されているほか、増税をするにしても、大企業や富裕者に対する増税を先行すべきではないか、そもそも「増税なき福祉拡充」が現実的ではないなどさまざまな議論を呼び起こしている。

 朴槿惠政権下で新たな経済社会の創造がめざされているが、政策の進め方や優先順位などを再考する必要があると思われる。


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