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2013/11/15

<オピニオン>転換期の韓国経済 第46回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第46回

◆日韓関係を考える3つの視点◆

 新政権誕生を契機に日韓の関係改善が期待されたが、現在のところ首脳会談の実現に目途が立っていない。歴史認識に関わる問題がネックになっているが、今日の日韓関係を理解する上で以下の3点が重要である。

 第1は、グローバル化に伴う日本の重要性の相対的低下である。2000年代以降韓国経済のグローバル化が加速するなかで、対日貿易依存度が著しく低下するなど、韓国にとって日本のプレゼンスが小さくなった。

 日本では一部で、日本企業は韓国企業に生産財を供給しているため、「日本から韓国への輸出がストップすれば、韓国経済は大打撃を受ける」という主張がなされることがあるが、これは必ずしも正しくない。日本からの輸入に基本的に依存する分野も存在するが、日本への依存度が低下しているからである。

 例えば、工作機械分野でも対日輸入依存度は緩やかに低下している(図参照)。

 生産財分野で対日輸入依存度が低下した要因には、①韓国における部品・素材産業の強化、②輸入先のシフトないし多角化、③日本企業による現地生産などが指摘できる。

 第2は、「円安・ウォン高」の影響である。韓国の対日輸出は東日本大震災後に増勢が強まったが、2012年末以降の急激な「円安・ウォン高」により、この動きは反転した。韓国のメディアのなかで「日本が通貨戦争を仕掛けた」という表現が多用されたことも、対日感情の悪化に拍車をかけた。

 第3は、韓国の司法の動きである。両国の大企業がビジネスを通じて信頼関係を構築してきたため、これまで経済関係は政府間関係悪化の影響をさほど受けてこなかった。

 しかし、韓国の高裁が「徴用工」に対する賠償を命じる判決を言い渡したことを契機に、日本企業の対韓ビジネスへの影響が懸念され始めている。日本の経済3団体と日韓経済協会が、賠償問題が日韓の良好な関係を損ないかねないことを憂慮し、問題の解決を望む声明を発表した。

 この声明に対して、韓国の外務省は「両国経済関係を引き続き発展させたいとの希望の表明と受け止める」と一定の理解を示したと報道されている。

 徴用労働者の賠償問題を含む両国間の懸案事項を少しでも解決するために、早期の首脳会談実現が望まれるが、現在のところその目途が立っていない。朴槿惠大統領が日韓関係改善にあたり、「正しい歴史認識にもとづく未来志向」を基本方針に据えており、その歴史認識に関して、両国間に大きな「隔たり」が存在するからである。

 日韓両政府が原則的立場に固執するのであれば、早期の関係改善は容易ではない。「正しい歴史認識」で一致することは難しいが、認識の「隔たり」を縮小することは可能であり、それに向けた努力が求められる。

 そのためには、日本政府が改めて村山談話を踏襲し、過去の植民地支配に対する反省にもとづいた未来志向をめざすと表明することにより、韓国側の対日不信を払拭させることが最低限必要である。韓国側にもより柔軟な姿勢が求められる。

 私たちに必要なことは、日韓にとって共通の利益を再認識し、互恵的関係を強化していくことである。

 対日貿易依存度が低下したとはいえ、韓国にとって日本、韓国企業にとって日本企業は依然として重要なパートナーである。とくに韓国が進める部品、素材産業の高度化に、日本からの投資が欠かせない。産業通商資源部を中心に、日本からの投資を積極的に誘致している所以である。また、自動車メーカーのなかには、国境を跨ぐ部品調達ネットワークを形成しているところがあるように、FTAの締結は貿易ならびに投資の増加につながる。さらに急速に少子高齢化が進む日本と韓国では、高齢者に対する生活支援サービスを相互に提供することも可能となる。

 15年は国交が正常化して50周年にあたる節目の年である。98年の「日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ―」の精神に戻り、「未来志向」的な関係を発展させていくことが必要である。


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