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2013/12/13

<オピニオン>転換期の韓国経済 第47回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

◆TPP参加を事実上表明◆

 韓国の今年7―9月期の実質GDP成長率が4―6月期と同じ前期比+1・1%(前年同期比は+3・3%)となり、景気の持ち直しが続いていることが示された。景気対策に支えられた前期と異なり、民間の消費と投資が成長を牽引したが、輸出は前期比1・3%減であった。

 こうしたなかで、11月29日の対外経済閣僚会議で、玄旿鍚・経済副首相兼企画財政相がTPP(環太平洋経済協力協定)交渉に参加する方針を表明した。

 TPPは2010年3月、原加盟国の4カ国(シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ)に、米国、豪州、ペルー、ベトナムが加わって交渉が開始された。その後加わったマレーシア、メキシコ、カナダ、日本を含む12カ国のGDP合計は世界全体の4割弱を占める。

 韓国は最近までTPPにさほど関心を示さず、二国間FTA(自由貿易協定)の締結を優先してきた。二国間の方が自国の利益を反映しやすいからである。すでにEU(欧州連合)、米国との間でFTAが発効しており、中国とも12年5月に政府間交渉を開始している。

 ここにきてTPP交渉への参加を表明した背景として、①日本のTPP交渉参加により、「FTA先行国」としての優位性が揺らぎかねないこと、②TPPの実現が現実味を帯びるなかで、それに参加しないデメリットが認識されてきたこと、③交渉のなかで、最小限度ながらも例外品目(関税撤廃対象外)が認められる可能性が出てきたこと、などが指摘できる。

 また、経済成長に対する輸出の寄与度が近年低下しており(下図)、輸出拡大のために自由貿易圏の拡大が必要になっていることも影響したといえる。

 韓国は上記12カ国のうち4カ国(チリ、シンガポール、ペルー、米国)とは二国間FTA、ブルネイ、ベトナム、マレーシアなどのASEAN加盟国とは「韓・ASEAN FTA」を締結しており、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、豪州、ベトナムとは二国間FTA交渉を進めている(日本とは04年11月以降中断)。このため、韓国にとってTPP交渉への参加は比較的ハードルが低いように思われるが、必ずしもそうとはいえず、政府の対応が注目される。

 一つは、カナダ、ニュージーランド、豪州などの農業国が含まれていることである。

 一連のFTA交渉で、韓国政府が農業分野でとってきた姿勢は、①可能であれば例外品目にする、②それができない場合は関税撤廃時期を遅らせる、③予想される負の影響を最小限に抑えるために、経営規模の拡大や施設の近代化など農業の構造改善を図る一方、所得を補償するなどである。

 これまでに締結したすべてのFTAで、コメは譲許対象から除外された。関税撤廃時期については、チリとの間でトマト、キュウリ、豚肉などが10年以内、米国との間では牛肉が15年以内、EUとの間では豚肉が10年以内となっている。TPPではこれよりも自由化水準が高くなるため、韓国政府は厳しい対応を迫られることになる。

 もう一つは、交渉に参加すれば、事実上の対日FTA交渉の再開になることである。自動車に関しては、米国も日本からの輸入増大を警戒しているため、早期の関税引下げは免れる可能性があるものの、自由化の進展により競争が一段と厳しさを増すだろう。

 ちなみに米国とのFTAにおける自動車分野に関する取り決めでは、自動車部品の関税率が発効後即時撤廃されたのに対して、完成車の関税率は5年目(韓国は米国からの輸入関税率を発効後即時に8%から4%に引き下げた後4年間維持)に撤廃される。
 
 朴槿惠大統領は当初、成長よりも雇用を重視する方針を掲げたが、雇用創出や福祉充実の財源確保のためには安定した成長が欠かせない。TPP交渉への事実上の参加表明は、成長を今までよりも意識し始めたことを示唆している。


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