ここから本文です

2013/01/01

<オピニオン>アナリストの眼 「東アジア市場・日韓連携で産業関連強化を」                                                      アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

 中国はアジアで赤字を出しながら欧米で儲け、日韓はアジアで儲け欧米でも黒字を出している。日本貿易振興機構(JETRO)によれば、2011年の中国の対アジアの貿易収支はマイナス1048億ドル、対欧州1264億ドル、対北米2057億ドルの黒字である。ASEAN(東南アジア諸国連合)も中国と同じ収支構造である。

 つまり中国、ASEANは「アジア赤字・欧米黒字型」貿易構造でアジア諸国には消費市場に、欧米に対しては生産工場と化している。これに対し、日本は対アジア784億㌦、対北米473億㌦、対欧州180億㌦そして韓国も対アジア796億㌦、対北米99億㌦、対欧州98億㌦である。これが日本、韓国と中国、ASEANの貿易収支構造の特徴である。

 かつて日本も欧米市場から生産財、部品等中間財さらには生産・経営技術を導入し、欧米市場に輸出するパターンで成長した。電気・電子、自動車、機械産業などはその典型だ。韓国、台湾も対日赤字・対米黒字で産業発展を図ってきた。その後、台湾は対日黒字に転じ、韓国も対日赤字縮小へと進み始めている。

 中国、ASEANなどのアジア市場がかつてのNIEs型の成長段階を迎えたことで日韓台の生産財、中間財供給力の重要性が増している。台湾企業は中国市場で日韓を凌駕する市場展開を進め、韓国も中国、ASEANに対し部品・素材の輸出比率を高めている。加えて韓国は近年米中への海外投資以外にベトナム、タイ、インドネシア、インドといったアジア市場への投資を急増させている。

 日本は中国、ASEANに対し赤字を計上しているが、これは東アジア大震災による輸入増もあるがこれは短期要因で、より根本的には長期円高で空洞化が進み、進出企業や現地企業からのアウトソーシングが定着したものである。直接投資残高も北米市場が09年以降減少する一方でNIEs、ASEANへの投資残高が増大し、アジア市場との紐帯強化が進んでいる。

 今後、中国、ASEANが産業発展への過程を進むためには日韓企業・政府の役割は大きい。同時に日韓もこの地域は欠かせない。企業レベルでは韓国のアジア進出が日本企業と経営連携しビジネスチャンスを拡大しているケースもあり、今後アジア市場において日韓台の個々の企業展開のみならず連携展開も増えてくるものと予想される。

 そして、そのことが中国、ASEANのアキレス腱である裾野産業を育成し産業連関効果を高めるであろう。

 例えばベトナムの裾野産業は、他のASEAN諸国と比べて遅れており、テレビ用部品の現地調達率は平均で20~40%と低く、他のASEAN諸国でも電子部品、金型、プレス・鍛造・メッキといった金属部品は十分に現地調達するのは困難だ。特に金型産業は日本に依存し続けている。韓国は、大学に金型学科を作って人材を育成してきており、すでに金型貿易は日本に対して黒字化し日本とともに金型産業に強い。

 したがって、こうした分野での日韓連携協力が拡大すれば、いずれASEANも「アジア黒字・欧米黒字」の日韓型の収支構造への転換も見えてくるであろう。


バックナンバー

<オピニオン>