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2013/03/01

<オピニオン>深読み韓国経済分析 第2回 経済民主化の実現を目指して                                                      リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

  • リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し、96年東洋大学経営学部卒業。96年現代証券入社、97年から現代証券東京支店駐在、07年韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、10年投資銀行本部長、11年代表取締役専務、12年7月代表取締役社長に就任。

  • 深読み韓国経済分析 第2回 経済民主化の実現を目指して②

◆従来成長モデルの転換を◆

 「経済民主化」。日本ではあまり聞き慣れないが、韓国の李明博元大統領の任期満了に伴う第18代大統領選挙戦で頻繁に登場した言葉である。先日(2月25日)、韓国の新大統領に就任した朴槿惠氏の政権公約でも、経済民主化の実現はその中心内容となっている。

 また、昨年12月に野党・民主統合党の文在寅氏との接戦が繰り広げられた大統領選挙でも、経済民主化は両候補の政策スタンスにおける大きな争点となっていた。

 なぜ、今韓国でこの「経済民主化」という概念が注目されているのか。その背景と経済民主化の実現に向けた新政権の課題について考えてみたい。

 経済民主化は韓国憲法の第119条に明記されており、大手財閥企業から中小企業や自営業者まで公正に競争し共生できる環境を作ることで社会的格差の縮小を目指すものとなっている。

 新政権の政策ではこの概念のもと、大手財閥企業における経済力乱用や取引での不公正行為を規制する取組みをはじめ、中小零細企業の支援・育成に力を入れることで国民経済のバランスのとれた発展を図る。

 韓国で経済民主化が注目されるようになったのは、韓国経済の発展過程がその背景にある。韓国の経済は、2011年まで約10年間において平均3・7%の成長率で発展を続けており、貿易では昨年貿易額で約1兆㌦を突破、世界8位の規模まで成長した。このような成長は、事実上経済成長を最優先課題としてきた歴代政権の財閥・大企業中心の政策により支えられていた。

 この過程で経済は目覚ましい成長を遂げたものの、その陰で中小企業の経営環境悪化や雇用環境の悪化、貧富の偏りなど、社会では様々な格差が生じたことで国民の不満が強まってきたのである。

 今回の大統領選挙戦で各政党が口を揃えて経済民主化を呼びかけたのも、この現状に対する国民の不満と改革への期待を感じ取ったものであろう。

 今まで安定的に成長を続けてきた韓国経済も、最近は、その勢いが弱まっているように見える。足元では、海外経済の低迷により輸出は伸び悩み、また、ウォン高の影響で大手輸出企業の採算が悪化したことで、昨年度から実質GDP成長率も減速している。

 今後も厳しい経済情勢が続くと予想される中、中小企業を重視する経済民主化の政策だけで社会格差の解消と共に成長を確保できるのだろうか。

 今までサムスンや現代自動車など、少数の大手財閥企業による輸出主導で韓国経済が成り立ってきたのも過言ではなく、社会格差の解消と経済の成長、両方を確保するのはそう簡単ではない。

 ちなみに、昨年8月に発表された調査によると、韓国の大手財閥企業10社の売上高が国内総生産(GDP)に占める割合は11年度の数値ベースで76・5%となっており、大手財閥企業頼みの経済構造の深刻さがよく表れている。(表参照)

 経済民主化は、このように財閥・大企業の競争力を弱め、経済成長を減速させるものとして懸念する声もあるが、長期的な観点では経済成長の面でも欠かせないものと筆者は考える。

 今後も韓国経済は輸出で成長していくしかならず、安定的成長を確保するには、財閥・大企業による輸出主導型成長から脱却する必要がある。そのためには、将来韓国の輸出を主導する競争力のある中小企業を育成・支援し、増やすことで従来の成長モデルを転換しなければならない。

 朴槿惠新大統領が、韓国経済を取り巻く厳しい状況の中、経済成長を維持させながら社会格差の解消にこれからどう取り組んでいくか、経済民主化の実現に期待が高まる。経済民主化で得られた社会格差の解消と経済の安定成長は、今後の韓国経済を動かす両輪になることに間違いない。


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