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2013/03/08

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第2回 日本の知恵とアジアの知恵の融合                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 教授

    キム・ミドク 多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所、三井グループ韓国グローバル経営戦略研究委員会委員などを経て現職。

◆市場に合うマーケティング展開を◆

 日本経済新聞の2012年9月18日付に掲載された「経営学のお手本、米国からアジアへ」という見出しが目にとまった。この記事の内容は、これまで日本で「経営のお手本」といえば米国企業であったが、近年その傾向に変化がみられ、アジア企業がお手本になりつつあるという。これは、12年9月5日に開催された第86回日本経営学会のテーマや発表論文を根拠にしたものだ。

 統一論題は「新しい資本主義と企業経営」としながらも、サブテーマとしては「アジア企業の経営から学ぶ」、「アジア内需の時代の企業経営」とされていた。発表論文も「中国の企業経営から学ぶ」、「韓国の企業経営から学ぶ」、「日本アジア間連携的経営」、「岐路に立つアジア経営」などとなっていた。

 それでは日本企業がアジアビジネスで成功するには、どのような素養や能力が必要であろうか。まずは、アジア企業情報の収集・分析・発信力、アジア消費者ニーズの把握、アジア戦略やアジアビジネスモデルの策定力、アジア政治・経済・文化の理解力、アジア近現代史など歴史観である。次にこれらの情報・知識・スキル・観点を繋ぎ合せて体系化し、アジアマインドやアジアセンスを磨くべきだ。そして最後は、アジアの企業やビジネスパーソンがもっている「アジアの知恵」を引き出し、これを日本の企業やビジネスパーソンがもっている「日本の知恵」と結びつける、もしくは融合させる地政学的知恵が求められるであろう。

 12年8月に開催されたロンドンオリンピックで日本は、金7、銀14、銅17の38個に上る過去最高のメダルを獲得した。また、金メダル獲得ランキングでは11位(7個)であった。ただ、アジア勢の順位で言えば、2位中国(38個)、5位韓国(13個)に次ぐものである。日本が過去最高のメダルを獲得した秘訣は、何だったのだろうか。それは、「結束力」、「女性力」、「裾野の広さ」、「絆」の4つの言葉に集約される。競泳は、北島康介選手を中心とした結束力で戦後最高の11メダルを獲得し、女子の卓球とアーチェリー、男子フェンシングは団体初のメダルとなった。

 メダル38個の内訳は、男子が21個で、女子は17個であったが、関わった選手の人数でみると延べ84人のうちサッカーやバレーボールでメダルを獲得した女子が53人と圧倒的であった。メダル獲得した競技種目数は、過去最多の13競技であったことから、競技種目の裾野が広がるとともにレベルの底上げが進んでいると言える。

 競技する日本選手と応援する国民との間に深まった「絆」は、可視化され、世界の人々からも喝采を浴びた。この「結束力」、「女性力」、「裾野の広さ」、「絆」は、まさしく「日本の知恵」が最も詰まったものではなかろうか。

 一方、ロンドンオリンピックで日本のお家芸である柔道は、日本男子が五輪史上初めて金メダルなしの惨敗に終わった。韓国男子は2個、ロシア男子は3個の金メダルをもたらした。また、女子柔道も日本はメダル獲得数が伸び悩んだが、中国が躍進した。

 果たして日本柔道の敗因は、何だったのだろうか。日本のメディアや専門家たちは、「日本柔道のガラパゴス化」、「日本は日本の柔道にこだわり、世界のJUDOに遅れている」、「日本の柔道監督に外国人を起用すべきだ」などと分析している。韓国の鄭勲(チョン・フン)男子柔道監督も「日本選手の技術が高いことに変わりはない。ただ国によって柔道のスタイルが違い、それに対応できていないのではないか」と同じようなコメントをしている。

 また、最近では全柔連が全日本女子選手から体罰・セクハラ問題で内部告発され、監督や全柔連幹部が辞任に追い込まれたが、本質的な敗因として全柔連の組織構造上の問題があったのかもしれない。

 このように日本柔道が多くの問題点を露呈する反面、中国・韓国・ロシアなどアジア勢が躍進した。その躍進要因は様々な分析があるだろうが、一つ気になることがある。それは、中国の女子柔道が、柔道の技を磨く過程で中国のお家芸である太極拳を取り入れたことだ。

 そこで柔道における「アジアの知恵」を考えるならば、日中韓のそれぞれのお家芸である日本の柔道、中国の太極拳、韓国のテコンドーを組み合わせて新たな柔道を追求するという発想もできる。当然、全柔連(講道館柔道)からすれば、邪道と叱責を受けるかもしれない。しかし日本柔道の惨敗ぶりや全柔連の失態から考えると、一考の余地はあるのではなかろうか。

 このような日本柔道の散々たる現状は、パナソニック・ソニー・シャープなど日本企業が、サムスンやLGなどの韓国企業に打ち負かされている現状とも相通ずるところがある。日本企業は、モノ作りにこだわり、世界最高の製品を製造しているのにも関わらず、アジアや新興国市場で稼ぎ切れていない。その理由は、国によって違う市場の特性に合わせたマーケティングが展開できていないからだ。

 今後、日本は、スポーツ界のみならず産業界においても「アジアの知恵」を本腰入れて取り入れて行くだろうし、アジアは「日本の知恵」をこれまで以上に取り入れるだろう。


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