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2013/04/05

<オピニオン>深読み韓国経済分析 第3回 創造経済の実現                                                      リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

  • リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し、96年東洋大学経営学部卒業。96年現代証券入社、97年から現代証券東京支店駐在、07年韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、10年投資銀行本部長、11年代表取締役専務、12年7月代表取締役社長に就任。

  • 深読み韓国経済分析 第3回 創造経済の実現

◆東アジアのシリコンバレーめざせ◆

 先月22日、韓国では朴槿惠政権の政府組織法改正案が成立した。本改正案は、未来創造科学部と海洋水産部の新設や政府組織体制を15部2処18庁から17部3処17庁へ拡大することなどがその骨子となっている。朴氏が大統領に就任して約1カ月。先日の改正案成立では野党との妥協において今後への課題を抱えるものの、これでようやく新政府としての形を整えスタートを切ることとなった。

 今回の政府組織再編での焦点として特に注目を集めたのが、「未来創造科学部の新設」である。これは、新政権が政策の中核として掲げる「創造経済の実現」と密接な関係をもっており、その実現において重要な役割を担っている。実際、このテーマは朴大統領の選挙公約をはじめ、大統領職引き継ぎ委員会時に発表された5大政策公約、先月の大統領就任の演説でも韓国の経済復興において鍵となる政策として真っ先に取り上げられていた。

 韓国経済の未来において創造経済の実現はなぜ必要なのか、また、第二の「漢江の奇跡」とも呼ばれる韓国の経済復興を再び成し遂げるためには、創造経済をどのように実現すべきかについて考えてみたい。

 創造経済は、科学技術とIT(情報技術)を基に新たな産業を開拓・育成し、雇用を創出することにより経済成長を図るものである。新政権は、政策運営の担い手として未来創造科学省を新設し、官民合わせた研究開発費を対GDP比率で5%水準まで引き上げるなど、基礎科学研究への支援を強化するという。

 ちなみに、現在の特許出願件数における国別ランキングでは、韓国が2012年推定値で1万1848件と5位にランクインしている(表を参照)。このような創造経済の実現に向けた取り組みは、韓国経済の成長において次の二つの側面から変化をもたらす点で重要な意味を持つと考える。

 一つ目の側面は、輸出成長モデルの変化である。韓国は現在世界8位規模の貿易国家であり、主に製造業を中心とした大手財閥企業による輸出主導の経済で発展してきた。また、同国の輸出主導型の経済は、先進国の背中を追いかけ既存の市場を拡大することで作られた成長でもある。韓国が10年、20年以上先における経済成長を目指すには、このような消極的成長モデルから抜け出さなければならない。創造経済の実現は、その基盤となる科学技術を発展させることで、韓国自らが先導した新たな市場の開拓、新たな雇用の創出を可能とする。

 二つ目の側面は、韓国経済を主導するプレーヤー層の変化である。大手財閥企業の成長で国家の経済が左右されるのでは、今後の成長は望めない。創造経済では、ベンチャー企業や中小企業が優れた技術やサービス手法などを持つ競争力のある存在として育ち、創造経済の主体として活躍することを目指す。大企業と中小企業が公正に競争し共に生きる「経済民主化」は創造経済への取り組み次第で実現できるのである。

 創造経済の実現によりこれら二つの側面において変化が起きれば、韓国経済は間違いなく長期的に安定的な成長を期待できるだろう。

 だが、科学技術の発展は一朝一夕にできず、研究に対する投資の拡大や環境の改善以外に教育全般への見直しも求められる。特に学歴至上主義や厳しい競争社会である韓国の教育現状において、科学技術の目玉となる独創性の欠如は問題視されており、教育での取り組みは今後の課題となる。

 様々な課題の中、本格的に稼働を始めた朴槿惠政権は、創造経済を実現し韓国の明るい未来を創造できるか楽しみである。


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