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2013/05/10

<オピニオン>深読み韓国経済分析 第4回 韓国経済とアベノミクス                                                      リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

  • リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し、96年東洋大学経営学部卒業。96年現代証券入社、97年から現代証券東京支店駐在、07年韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、10年投資銀行本部長、11年代表取締役専務、12年7月代表取締役社長に就任。

  • 深読み韓国経済分析 第4回 韓国経済とアベノミクス

◆為替に左右されない強い企業体質を◆

 円安の勢いが止まらない。先月23日の為替市場で、円相場は対ドルで一時99・90円を付け、2009年4月以来となる1ドル当たり100円台を目前にした。一方、ウォンの価値は100円当たり1121ウォンで前日より3・2ウォン上昇した。長年日本経済を苦しめたデフレや円高から脱却することを目指す経済政策「アベノミクス」により、円安基調は積極的な金融緩和策の推進とともにだんだん強まり、円の価値はここ半年間で約20%下落したのである。このような円安トレンドは、特に韓国経済にとって北朝鮮の地政学的リスクよりも脅威的なものとして今大きな懸念材料となっている。

 確かに円安は韓国の輸出企業に大きな打撃を与える。電機や自動車、鉄鋼、船舶、石油化学など、多くの輸出品目において、韓国と日本の企業は激しい競争を繰り広げてきたため、円安は韓国企業に価格競争力の低下と採算悪化をもたらす。最近の円安・ウォン高の流れは、今後も持続する可能性が高いとみられており、韓国企業には迅速な対策の構築が迫れられている。インフレ目標の達成に向けて最低2年の金融緩和を予定しているアベノミクスとそれに伴う円安に、韓国はどのように向き合うべきか。

 韓国経済がアベノミクスによる円安の弊害を最小限に抑えながら成長していくためにその対応を考える上では、円安という事態をどう捉えるかが鍵になる。円安は貿易で支えられている韓国経済に悪い影響を与えるものとして、悲観的に受け取られがちな現象ではある。しかし、過去の例をみると円安が韓国の輸出を減少させ経済を弱めるものとは言えない。06年のドルに対する円相場は平均で116・3円と前年比5・2%下落したが、当時の輸出増加率は前年比14・4%であった。また、その翌年もドル円相場は年平均で117・8円とさらに下落したにもかかわらず、輸出は14・1%増加したのである。このようなデータから考えると、最近の円安基調は、08年の世界的金融危機以降に急激に上昇した円相場が適正な水準に戻る過程であると思われる。

 円高の状況で恩恵を受けてきた韓国企業がアベノミクスを試練のように感じるのは当然のことである。だが、こういう時こそ韓国企業に必要なことは、この状況をただ不安視し右往左往するのではなく、前向きな姿勢で冷静に対策を考えることである。

 過去約3年間、円高による業績不振で多くの日本企業は苦戦していたが、その中でもトヨタや日産などの自動車メーカーは海外の生産能力を強化し、ハイブリッド自動車など、次の一手となる技術や製品の開発に力を入れ価格以外のところでも地道に競争力を高めてきた。このような日本企業の取り組みは、価格競争力の面において日本とは立場が逆転した今、韓国企業に注目してほしい部分である。価格の面での魅力が大きいと言われてきた韓国製品においては、円安の試練をそういったイメージから抜け出すためのきっかけとして活用したい。韓国企業は技術や品質、生産性、マーケティングなどの本質的な部分でさらに競争力を高め、為替変動に左右されない強い企業体質をつくることでアベノミクスや円安は乗り越えられる。近年、韓国製品の技術や品質の競争力は、円高の下、価格競争力で成長してきた中でも向上を見せている。昨年、日本企業による韓国製の自動車部品の輸入は486億円となり3年連続の増加を記録したという。この結果は円高のほか、製品の品質向上が大きく寄与したものであり、韓国企業の非価格競争力が高まった一面がうかがえる。韓国企業は今後より多くの分野でこのような成長を遂げ、アベノミクスと円安を克服することを期待したい。韓国企業のさらなる飛躍のための転換期が今始まっている。


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