ここから本文です

2013/07/05

<オピニオン>深読み韓国経済分析 第6回 家計の体力強化求められる韓国                                                      リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

  • リーディング証券 李 俊順 代表取締役社長

    イ・ジュンスン 1968年韓国京畿道生まれ。90年渡日し、96年東洋大学経営学部卒業。96年現代証券入社、97年から現代証券東京支店駐在、07年韓国投資証券を経て09年リーディング証券入社、10年投資銀行本部長、11年代表取締役専務、12年7月代表取締役社長に就任。

  • 深読み韓国経済分析 第6回 家計の体力強化求められる韓国

◆根本からの経済的構造変化を◆

 先月の19日、米国の量的緩和第3弾(QE3)の縮小を巡る観測に市場の関心が集まる中、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、はじめて金融緩和縮小について年内実施への可能性に言及した。その翌日、中国やインドなどの主要アジア市場では、米国の量的緩和により新興国に大量に流入していた投資マネーが流出する懸念が急速に高まり、通貨と株がそろって全面安となった。

 米国の量的緩和縮小は新興国の金融市場を潤してきた潤沢な資金を減らし、新興国の経済減速をもたらす懸念材料になりかねない。この現象は韓国においても例外ではなく、20日の韓国総合株価指数(KOSPI)は前日比2%下落し、通貨ウォンは対ドルで1145・7ウォンを付け昨年7月26日以来の安値を記録するなど、資金流出の動きとして表れた。また、バーナンキ議長の発言後、韓国では「バーナンキショック」という言葉が新聞記事の見出しに頻繁に登場、量的緩和縮小への警戒感は一層強まっていた。

 韓国の場合、3281億㌦規模の外貨準備高を保有していることや、15カ月連続で経常収支黒字を達成していること、海外主要格付会社による信用格付けも良好なレベルを維持していることなど、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)がしっかりしている点を考えると、米国の金融緩和縮小による影響は限定的であるとの見方も多い。

 むしろ金融緩和政策を縮小方向に向かわせる米国経済の好転は、韓国の対米輸出拡大などによる経済的メリットをもたらすことも期待できる。しかし、このようなポジティブな要素が出ていても市場の警戒感が消えない理由は、韓国経済にとって長年問題となっていた家計負債への不安が今浮上しているためである。

 昨年における韓国の家計負債は、韓国中央銀行の発表によると1098兆5000億ウォンを記録し前年度より約52兆ウォン増加した。この数値は、約600兆規模だった2000年代初期の家計負債より約10年間で2倍近くも増加している。もし米国の金融緩和縮小が開始されれば、長期金利が上昇し約1100兆ウォンに達する家計負債から発生する利子への負担が増えると予想されており、家計負債の問題は今後さらに深刻化することが懸念される。実際、家計負債の増加とともに赤字世帯の数も増加を続けており、中産階級の中で赤字世帯が占める割合は、1990年の15・8%から10年には23・3%まで上昇した。

 家計負債問題の要因としては、金利の上昇や不動産価格の下落、所得の減少などが挙げられる。これから家計負債の負担を減らしていくためには、個人の負債返済能力を高めることで家計の体力を強化することが何よりも必要だと考える。韓国は大手輸出企業を中心とした成長モデルで発展を遂げており、その経済規模は98年の3454億㌦から11年の1兆1162㌦まで拡大した。

 韓国は97年にあった経済危機の時より国としての体力は強化されたものの、大企業中心の成長モデルにより貧富の格差がますます拡大し、家計の体力は弱まってきたのである。

 今年2月に発足した朴政権の公約の中には、「中産階級の割合を全国民の70%まで上げること」、「雇用率を70%に上げること」が重要政策として位置付けている。この政策は、低所得層に対する所得の再分配と雇用支援を通じて中産階級を拡大させることで、韓国経済に長年根付いている貧富の格差を解消することを目的としている。このような所得の再配分による所得の底上げは、個人の負債返済能力と家計の体力を強化する上で、一つのステップになると考える。政府は、家計負債問題の解決に向けて今の経済的構造を根本から変えることができるか、政策の実現に注目が高まる。


バックナンバー

<オピニオン>