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2013/07/26

<オピニオン>韓国経済講座 第154回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第154回

◆延吉の一人当たり年収32万円◆

 「中国崩壊論」の報道が喧しい。そんな中、ここばかりはどこ吹く風だ。延辺族朝鮮自治州のGDP成長率は2010年18・6%、11年は22・1%と急拡大を続けている。州都延吉市のGDPも同時期18・0%、21・5%と比肩している。一人当たりGDPも州は18・5%、21・9%も上昇し、市のそれも15・9%、19・0%と高い成長を見せている。その結果、延吉市の都市部住民一人当たりの可処分所得は11年に1万9558元(約3185㌦、32万円)となり、これは00年の3・5倍強の所得規模である。

 延吉市のこうした急拡大は、もともとの基礎数値が低いことで少しの規模の拡大でも高い成長率となって表れると言う数値上のトリックもあるが、それよりも第11次5カ年計画期(06~10年)の急成長がある。この期までは地方の活力を主体にする方針から民間経済を中心に地域開発を進めてきたが、充分な成果が得られないとし、この期から中央政府が直接介入する政府主導型の開発へと転換したことが急成長を遂げている大きな要因である。

 こうした状況は掲げた表にも現れている。都市建設が資本不足で思うにまかせなかった中で、政府主導型の開発方式で延吉市の固定資本投資額は05年34・1億元であったものが10年には65倍の213・6億元の投資が行われ、11年にも155・6億元が投資された。これらの投資は市内の建設投資として、住宅、道路、護岸工事、公園建設や公共施設の修理、改造投資、さらには不動産開発公司、建設公司などを通じた投資などにより市内の整備が行われている。同時に建設・土木関連の雇用が増え、労働力不足の市内に市外からの労働力流入や州外労働者も増えている。また、建設関連需要、つまりガラス、アルミサッシ、塗装、電気、水道、建設機械などなど建設裾野分野にまで需要が広がっている。

 こうした活発な都市建設は、国内でも高い評価を受けている。現在延辺州は全国53候補都市から選出される第4回「ブランド生活順位表」の2013都市評価先発大型活動において10大都市候補に入っており、今年10月に発表される。最も都市経済力がある全国10大都市の選定に当たっては、都市投資誘致実績、社会評価、投資審査批准手続き及び効率性、交通、倉庫、物流など基礎施設の状況と収税法制化の程度、ライフサイクル管理制度、福祉型施設建設状況、人力資源状況、合理的な最低賃金制度などが厳格に審査されると言う。

 こうした活発な投資活動は民間経済の活性化を齎している。例えば、今年5月末までに、主な営業収入は364億元に達したと言う。これは昨年同期比21・1%の増加で、民間経済活動の活発さを表している。そしてそれは市の税収にも反映し、今年第1四半期の州税収は35・9億元で昨年同期比14・9%の増加だ。この内延吉市の税収は8・96億元で、州の25%を占めている。市の税収は持続的に増加しており、05年で8・2億元が10年には46・4億元と5・6倍、翌11年には55・7億元、6・8倍に増え、州財政の50%を占めている。こうした財政収入が投資の源泉になっていることは言うまでもない。

 市民の所得も当然上昇している。冒頭で述べた様に、州の都市住民の所得は11年1万9558元で、00年の3・5倍強増えている。州の統計は、延吉市を都市の代表としているため市の都市所得額は州と同じである。農民の所得も伸びており、この間州の農民平均所得は都市のそれとの格差はあるものの少しずつ縮小している。また、都市所得との格差はあるものの拡大はしていない。

 ところで、一般に所得が上昇すると限界消費性向(追加的消費)が減るため、消費性向(消費支出/可処分所得☓100)は低下する傾向があるが、都市の消費性向は90年87・6%、00年86%、10年84%と殆ど低下していない。それは追加消費が落ちないことと同時に、それを可能にしているのは本統計に表れない「第二の財布」があるからだ。つまり、州外送金が家計に入るためである。

 延吉市の州外労務者総数は、11年までの統計で9万8725名、この内、国内労務者が4万8383名、国外労務者が5万342名である。彼らの送金は07年から11年までで40億㌦(4025・6億円)に達し、昨年の市民一人当たりの貯蓄額は4万9951元(82万円)に達し、市内の一人当たり所得32万円の2・5倍強にまで達している。ここに限界消費性向が落ちない秘密がある。

 投資増大―インフラ整備―民間経済成長―財政収入増加―財政支出拡大―GDP成長―州外収入増加―所得増大―消費拡大と、まさにここばかりは「どこ吹く風」のようだ。


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