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2013/08/30

<オピニオン>韓国経済講座 第155回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第155回

◆汗の結晶は何処へ◆

 中国は韓国の輸出1位国ではない。韓国貿易協会の統計によると、国別輸出額は中国1343億ドル、米国585億ドル、日本388億ドルと、中国への輸出規模は2位アメリカの2・3倍も多い。どう見ても最大の輸出相手国は中国だ。

 しかし、別の統計でみると様相は異なる。2013年1月16日、OECDとWTOが09年実績を利用した『OECD―WTO付加価値貿易イニシアティブによる国際貿易データ』および5月29日に第2弾として『世界の貿易におけるサービス貿易の重要性OECD―WTO付加価値貿易データベース』を公表した。これらは付加価値貿易統計(TiVA)と言われている。例えば韓国で生産した部品を中国に60㌦輸出し、中国がそれを使用し100㌦の製品にして米国に輸出し、そこで消費されたと仮定しよう。従来の貿易統計では、韓国統計では中国に60㌦輸出として計上され、中国は米国に100㌦輸出したことになる。

 しかし、TiVAでは韓国で生産された付加価値が米国に60㌦輸出され、中国は米国に40㌦分の付加価値を輸出したとされる。つまり米国は韓国から付加価値60㌦を輸入、中国からは40㌦輸入として集計されるのがTiVAであり、原産国の付加価値が最終的にどの国で消費されたのかが分かるのだ。

 TiVAでは韓国貿易の姿はどう映るのだろうか。まず、09年の輸出付加価値比率(付加価値輸出額÷輸出額☓100)を日中韓で比較すると、日本88・8%、中国69・8%、韓国64・6% (OECD統計では59%) となる。この意味は、原産国の付加価値の比率を示し、残りは他国の付加価値が貿易統計に含まれると言うことで、この比率が低いほど輸入財に依存した輸出構造であることが分かる。つまり韓国と中国は、輸出の30~40%程度が他国からの付加価値を含んでおり、日本は約90%が国産品を輸出していると言うことになる。もう少しいえば韓中はグローバルバリューチェーンが形成されているのに対して日本はドメスティックバリューチェーンが充実していると言える。

 さて、掲げた表から、従来の貿易統計での韓国の輸出総額に占める中国の比率は23・8%で第1位、米国が10・3%で第2位、日本は6・0%で3位となっているが、TiVAでみると米国の付加価値輸出が19・4%とほぼ2倍に増えて第1位、中国は14・9%と大きく減少し第2位、3位の日本は7・1%と比率が増える。

 つまり、韓国の付加価値が消費される最大市場は、中国ではなく米国となり、韓国の中間財を輸入、加工する中国で付加される価値はその多くが米国をはじめとする先進国へ向かい消費されていることになる。ちなみに中国の付加価値の70%が米国をはじめとするOECD諸国へ輸出されている事実がある。

 貿易利益を測る収支の状況も両統計では異なる。韓国の付加価値収支を見ると、米国は154億㌦の黒字で、貿易統収支86億㌦の1・8倍の増加となる。

 これに対し中国の付加価値黒字は117億㌦で、貿易黒字の325億㌦の僅か36・0%に激減する。この二カ国の逆転現象は、まず中国の黒字減少は、韓国の対中輸出付加価値比率(対中輸出付加価値額÷輸出額☓100)は40・3%と輸出額の60%が日本や他の国の付加価値が含まれていることから付加価値輸出規模減少が付加価値収支に反映されているのである。

 他方、米国の付加価値黒字増大要因はこの延長線上にある。韓国の対米輸出付加価値比率は92・8%と対米輸出のほとんどが他国の価値を含まない韓国の付加価値である。これに加えて中国など第三国へ向かった韓国のグローバルバリューチェーンからの付加価値が対米輸出製品に組み込まれて米国に向かうため付加価値黒字規模の増加となっているのである。

 貿易収支赤字277億㌦の日本の付加価値収支赤字は64億㌦に減少する。「韓国のアキレス腱」と言われる巨大な対日赤字は付加価値ベースで見ると激減する。それは韓国に対する日本の輸出付加価値比率が46・8%と低く、逆に韓国は76・7%と高いためこの収支は減少するのだ。つまり、これまでの貿易統計で測った対日赤字のほとんどが日本原産品と思われていたが、これは対日赤字を過大評価していたことになる。従来、韓国の対日依存と見られていたものが、実はそうではなく日本のグローバルバリューチェーンが見えていなかったのである。

 TiVAが浮き彫りにしたのは、韓国のグローバルバリューチェーンの進展と消費市場の中国依存ではなく米国消費市場の重要性の再認識である。


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