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2013/11/22

<オピニオン>韓国経済講座 第158回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第158回

◆切っても切れないゾ!◆

 アベノミクスと朴政権の日本外しの政治外交によって日韓経済交流も停滞気味である。2012年11月ごろからのアベノミクスによる円安進行が続く中、13年に入り日本企業の対韓投資は大きく減少している。

 他方、13年2月の就任後、朴槿惠大統領は、中国、米国、ロシア、東南アジア、ヨーロッパ3カ国(フランス、イギリス、ベルギー)を訪問し、年内の海外外交を終了し、日本訪問は先延ばしとなった。

 こうした日韓外交環境を反映してか13年9月末で、日本企業の対韓投資は19億6307万㌦で、前年同期比で40%減少、今年の上半期における日本の全海外投資額は5・9%の減少に対し、対韓投資は35・1%も減少していると言う。これに対し韓国の対日投資13年第1四半期は前年同期比26・7%増の3億7200万㌦であったとされ、韓国企業の日本進出は伸びている。

 直近の日本企業の対韓投資は、上述のように減少しているものの、大局的には韓国市場への進出は増加傾向にある。つまり短期的な政治外交による乖離はこれまでも繰り返されてきているが、経済的な依存関係は深まってきており、今後もこうした傾向は続くであろう。政治外交の乖離は、こうした経済依存関係の深まりの上で起こっている現象であり「歴史は繰り返す」と言うわけだ。

 ところで、日本企業の12年実績は、過去最高額を記録した2000年(24億5200万㌦)を大きく上回って、45億4200万㌦に達した。こうした実績の背景には韓国側の不断の誘致努力があることを看過できない。

 好例として聯合ニュースの12年9月5日付のニュースを紹介しよう。一度に複数の日本企業を誘致することに成功した韓国慶尚南道の金海市に、韓国の地方自治体の注目が集まっている。日本企業が韓国に専用産業団地を造成するのは初めてとなる。

 慶尚南道と金海市によると、自動車部品など電子部品商社の黒田電気は同市に日本企業専用の産業団地を造成するため、8月に韓国企業と合弁会社を設立するなど具体的な準備に着手した。新会社は10月に産業団地造成承認を申請し、来年上半期に整地工事に入る予定だ。

 産業団地は約45万平方㍍の土地に造成されるようだ。黒田電気のパートナーである日本企業の工場が20カ所ほど建設される。入居は15年を予定する。産業団地造成に関し、金海市は5月中旬に黒田電気など6社と、6989億ウォン規模の投資協定を結んだ。市は、約3000人の雇用創出や関連企業の育成など、地域の経済発展の起爆剤になると期待している。

 同市には、企業誘致を目指すほかの自治体から誘致経緯に対する問い合わせが相次いでいる。これについて市は、市内にある黒田電気のパートナー企業から、黒田電気が日本のパートナー企業とともに海外に生産工場を設立する計画があるとの情報をキャッチし、いち早く誘致作業に乗り出し、粘り強く説得を続けたことを挙げた。企業支援課の担当者は「慎重に慎重を重ねる日本企業の投資を誘致するには、信頼と真剣さが重要」と話した。

 長い引用になったが、本文には日韓企業及び地方自治体の努力が明示されている。日韓の経済的相互依存はこうした民間企業の粘り強い努力の積み重ねがあるのである。掲げた表はIMF危機以降の日本企業の投資残高の推移であるが、危機以降しばらく低迷していた投資も2000年代半ばには回復し、韓米、韓EUのFTA締結以降さらに対韓投資が活発になった。

 最近の特徴は、大型FTAの締結を背景に輸出を伸ばす韓国企業に対して、素材を提供する日本企業の進出がある。JETROによると、12年のリチウムイオン二次電池向けのセパレータの製造・販売会社を設立した帝人(12年2月発表)、薄型パネルディスプレー用ガラスの製造・販売会社を設立した日本電気硝子(12年5月発表)、半導体や薄型パネル生産で使用されるフォトレジストの開発・製造・販売会社を設立した東京応化工業(12年8月発表)などが代表例だと言う。

 こうした傾向は韓国の組立部門が未成熟の時期には組立企業が、部品部門が脆弱な時期には部品企業が、と韓国の産業発展に合わせるように多くの日本企業が進出し、日韓市場の相互依存が進展してきた。大袈裟に言えば数年で変わる政治体制のその時々の政策は、長い経済的連携からしてみれば一過性の現象と言えるかも知れない。そこまで言わなくとも日韓の経済的紐帯関係は両国の産業発展と深く結び付いているのだ。


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