ここから本文です

2014/01/24

<オピニオン>転換期の韓国経済 第48回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第48回

◆求められる日韓関係修復への努力◆

 現在、日本と韓国との政治・外交関係(以下、「関係」)は「最悪」に近い状態にある。関係改善に向けての修復力が働かないばかりでなく、その糸口さえみえないからである。修復力が働かない要因には、次の4点が指摘できる。

 第1に、両国を取り巻く環境の変化がある。まず、冷戦体制の崩壊によって安全保障面で、日韓関係の重要性が低下したことである。冷戦体制期には中国、ソ連、北朝鮮など共産主義圏に対して韓米日の連携が不可欠であったが、冷戦体制の崩壊により三国を連携させる力は弱まった。つぎに、経済面で韓国にとって日本の重要性が以前よりも低下したことである。重要性が低下すれば、関係を修復させようとする力は働きにくい。その一方、安全保障と経済の両面で中国の重要性が高まったのが近年である。

 第2に、政治・外交分野における「知日派」、「知韓派」の政権中枢への影響力低下がある。かつては両国の大物保守政治家が関係修復に大きな力を発揮したが、それが機能しなくなっている。これには世代交代のほかに、前述した安全保障面における日韓関係の重要性の低下も影響している。韓国の外交部でも「チャイナスクール」が台頭する一方、日本留学の経験のある「ジャパンスクール」、「知日派」の存在感は低下した。

 第3に、韓国における民主化の進展である。韓国では80年代後半に民主化が進んだ。国民意識の向上と情報公開を求める動きにより、政府・官僚による情報統制が困難となり、過去の日韓会談関連の外交文書が公開されるようになった。これを機に、社会の側から過去の政府が不問にした問題に対する問い直しが始まった。従軍慰安婦や戦時徴用労働者の未払い賃金などの問題が登場したのもこうした流れのなかである。

 さらに世論に押されるかのように、最近になり司法が1965年に形づくられた日韓の法的枠組みを揺さぶり始めた。

 第4に、現在の両国リーダーの政治信条・姿勢がある。朴槿惠大統領は首脳会談開催の条件として「正しい歴史認識」を掲げ、国際社会の場で日本政府の姿勢を機会あるごとに問題にしている。他方、歴史認識の見直しを政治信条の一つにする安倍首相は歴史問題に関して基本的に従来の姿勢を貫き、13年末には靖国神社に参拝した。これに対しては、東アジアの緊張を高める行為として、米国からも「失望している」との声明が出された。

 中国が防空識別圏を設定した(13年11月23日)のを契機に、韓国のなかで冷え込んでいる日本との関係を修復していくべきだとの意見が出始めた矢先、安倍首相の靖国神社参拝がそれに水を差した。

 このようにいくつかの要因が重なっていることを考えると(図)、関係修復は一筋縄ではいかないことがわかる。日韓両政府が原則的立場に固執するのであれば、早期の関係改善は容易ではない。「正しい歴史認識」で一致することは難しいにしても、認識の「隔たり」を縮小することが求められよう。現在必要なことは、改めて日韓にとって「共通利益」を再認識し、互恵的関係を強化していくことである。

 一つは、経済協力である。日本企業と韓国企業はサプライチェーンで結ばれている。基幹部品、高品質の素材、原材料分野で、韓国企業は日本企業に依存している部分が多い。同時に日本企業にとっても、世界市場で販売力を有する韓国企業は重要な納入先である。また東日本大震災後、日本は不足する石油製品を韓国からの輸入で補ったように、エネルギー分野での相互協力も重要である。

もう一つは、社会協力である。日本と韓国は少子高齢化、非正規労働、格差の拡大など共通する問題を抱えているため、政策面や活動分野で相互に学ぶことができる。経済統合が進めば、高齢者に対する生活支援サービスを相互に提供することも可能となる。

 日韓関係が冷え込んだ今、わたしたちに必要なことはこうした事態にいたった経緯を冷静に分析した上で、その修復に向けた努力をしていくことである。


バックナンバー

<オピニオン>