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2014/02/21

<オピニオン>転換期の韓国経済 第49回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第49回

◆韓国の対中輸出依存度◆

 2013年は、日韓関係の冷え込みが両国の経済関係にマイナスの影響を及ぼした。これと対照的に、韓国経済の対中依存が強まった年であった。

 92年の国交正常化以降、韓国と中国との貿易は急拡大した。とくに2000年代には、WTO(世界貿易機関)に加盟(01年)し高成長が続く中国への直接投資が急増したのに伴い、韓国から原材料、部品などの生産財や資本財の輸出が誘発されたほか、中国国内の需要拡大により消費財の輸出も増加した。

 02年から04年にかけて対中輸出が前年比30%以上の伸びを続けた結果、03年には中国が米国を抜いて韓国の最大の輸出相手国となった。

 また、対中輸入も増加し、07年には日本を抜き中国が最大の輸入相手国となった。

 その後、中国の成長鈍化と中国以外の新興国との貿易拡大などにより対中輸出・輸入依存はやや低下したが、足元では再び上昇している。

 特に対中輸出依存度は13年に26・1%と過去最高となった。これには、①中国の景気持ち直し、②中国以外の新興国の成長減速、③欧州向け輸出の回復の遅れなどが影響したと考えられる。

 また、近年総じて減少傾向にあった対中直接投資額が13年に前年比30・5%増となった(数字は韓国輸出入銀行)。ASEAN諸国向けが12年まで高水準で推移してきた反動で減少したこともあり、13年はASEAN諸国向け直接投資額を4年ぶりに上回った。

 さらに13年は「円安・ウォン高」と日韓関係の悪化により、日本からの観光客数が前年比21・9%減となったのに対して、中国からの観光客数は同52・5%伸びて日本を抜いて最多となった。

 他方、中国経済にとって韓国の位置づけをみると、中国の対韓輸出、輸入額は増加基調にあるものの、対韓輸出・輸入依存度は近年総じて緩やかに低下している。

 対韓輸出依存度は08年の5・2%をピークに低下し、13年は4・1%となった。低下した一因に、韓国の実質GDP成長率が11年3・7%、12年2・0%、13年は2・8%と低水準で推移してきたことがある。

 対韓輸入依存度も05年の11・6%をピークに低下し、13年は9・4%となった。ただし、日中関係の悪化により中国の対日輸入額が2年連続で著しく減少した結果、13年は対韓輸入額が対日輸入額を上回った(図参照)。

 今後対韓輸出額が対日輸出額に近づいていけば、近い将来中韓貿易額が中日貿易額を逆転することになる。韓国の名目GDPが日本の約5分の1であることを踏まえれば、注目すべきことといえよう。

 韓国にとって中国が最大の貿易相手国となり、安全保障面(とくに朝鮮半島情勢の安定)で重要性を増したため、韓国政府は中国を重視した外交を展開している。

 このことは朴槿惠大統領が就任後の首脳会談の相手に、米国の次に中国を選んだことに表れている。

 13年6月28日に発表された共同声明では「戦略的協力パートナーシップ」を充実させること、そのために、①政治・安全保障分野の戦略的意思疎通を強める、②経済、社会分野の協力を一段と拡大する、③両国民間のさまざまな形の交流を促進し、両国の人文(人と文化)の結びつきを強める活動を積極的に推進することが明記された。

 また、FTA(自由貿易協定)締結に関しても、韓国は日本との交渉(04年11月以降中断)再開に力を入れるよりも、中国との交渉開始を優先した。

 韓中FTA交渉は12年5月に開始され、13年9月上旬にモダリティに関して基本合意に達した。貿易品目の90%、輸入額の85%で関税を撤廃する予定である。

 自由化の水準(品目ベース)はEUとのFTAでは98・1%、米国とのFTAで98・3%であるため、水準的には高くないとはいえ、日本より先行して締結すれば、韓国企業は中国市場へのアクセス面で優位に立つことができる。

 韓中FTA交渉のゆくえは日中韓FTAにも影響を及ぼすため、今後の動きを注意深くみていく必要があろう。


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