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2014/01/01

<オピニオン>アナリストの眼                                                                           アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • アナリストの眼②

◆成長ビジョンと成長戦略を◆

 2013年の韓国経済は輸出が牽引した。貿易総額1兆ドル超過、輸出総額過去最高(5600億ドル)、貿易収支黒字過去最大(430億ドル)の「貿易トリプルクラウン」を達成した。こうした実績は、12年の経済成長率2・0%の「底」から13年2・8%(暫定値)と回復局面へ転換させた。

 内外機関が発表した2014年の経済成長率予測は2・6%から4・0%まで予測幅が広い。しかし大方の予測は3%後半で、12年より1ポイント高い。この予測の背景には基本的に輸出が主導しつつも13年後半から建設・設備投資の回復、民間消費微増など内需回復傾向がある。

 輸出の懸念は新興国リスクで、13年の輸出市場占有率で73%を占める新興国の成長率の低下や米国の量的規制緩和終了懸念、原油価格高止まり、そして何よりもウォン高・円安が韓国の輸出増加率を引き下げると予測される。 

 緊急対策が求められるのは膨らむ個人負債と国家負債だ。特に財政赤字問題は、14年度の成長率が予測通りの回復を見せたとしてもそう簡単ではない。13年末の国家負債は同時期のGDP(国内総生産)の80%に達し、中央政府負債、地方政府負債、中央公企業負債、地方公企業負債など合計1053兆ウォンに達する。

 14年度の成長が回復を続ければ内需拡大による税収増、個人所得増、雇用拡大も期待できよう。

 13年第3四半期(7~9月)のGDP増加率は3・3%と前2期を大きく上回る成長を見せた。これに合わせるようにサムスン電子は同期間に過去最大の売上高と営業利益を達成した。しかし、これに続く大企業の売上高げと営業利益は減少傾向にある。

 朴槿惠政権が進める経済民主化実現が未だ程遠い。韓国経済の構造的問題は、こうした部分的成長要素と全体的非成長要素、すなわち成長の両極化をいかに解消するかだ。一部に富が集中する構造は途上国に見られる特徴であるが、韓国では先進国型一極集中のため市場成熟度が高く改善は容易でない。

 分配政策よりも経済に広範囲に確立している独寡占システムを打破しなければ経済民主化は実現できないだろう。しかし、この間の景気回復に対する政府対応は遅れており、100件を超える経済活性化法案の実現には至っていない。部分的成長では国民生活向上への成長果実の浸透効果は薄く、両極化の歯止めにはならない。

 2年目に入る朴槿惠政権に求められるのは、何よりも成長ビジョンと成長戦略の逸早い提示と実施である。


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