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2014/06/06

<オピニオン>韓国福祉国家を論じる 第4回 公的扶助制度の展開                                       東京経済大学経済学部 金 成垣 准教授

  • 東京経済大学経済学部 金 成垣 准教授

    キム・ソンウォン 1973年韓国生まれ。延世大学社会福祉学科卒業、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。東京大学社会科学研究所助教などを経て現在、東京経済大学経済学部准教授。

◆状況改善に向け改革議論を◆

 公的扶助は、税を財源とし貧困者の最低生活を保障するための制度である。同制度は、福祉国家の様々な制度・政策、特に社会保障制度のうち最後のセーフティーネットともいわれている。ここでは、その公的扶助を中心に、韓国の社会保障制度の全体的な特徴とその問題点また今後の課題について考えてみたい。

 1990年代末のIMF危機の際に、韓国ではそこで発生した大量失業・貧困問題に適切に対処できるような社会保障制度は整っていなかった。社会保険としての雇用保険は一部の労働者のみを対象としていたし、公的扶助の前身である生活保護は高齢者や児童、障害者など労働無能力者のみを対象としていた。このような制度的仕組みの中で失業者のほとんどが雇用保険からもまた生活保護からも救済できない状況に置かれてしまったのである。

 そこで一方では、雇用保険の適用対象をすべての労働者に拡大する改革を行い、他方では、労働能力の有無にかかわらず、すべての国民の生存権を保障する現代的な意味での公的扶助として国民基礎生活保障制度(以下、基礎保障)を導入した。これにより、何らかの理由で失業した場合、まずは雇用保険から給付を受け、その給付期間が終了した後も再就職できず、なお貧困状態にあると、最後のセーフティーネットとしての基礎保障の給付を受けることができるようになった。この社会保障の基本的仕組みの整備において、現代的な公的扶助としての基礎保障の導入が決定的な役割を果たしたことはいうまでもない。

 ところで、雇用保険を含む社会保険との関連で、公的扶助としての基礎保障の中身をみると、他の国にはみられない独特な点を発見することができる。すなわち、多くの西欧諸国においては、最後のセーフティーネットといわれる公的扶助以外に、税を財源とした同じ扶助原理の制度が多数導入されている。社会保険の対象にならない長期失業者や若年失業者を対象とする失業扶助、また家族手当や住宅手当などの社会手当がそれである。社会保険とも異なる、公的扶助とも異なるこれらの制度の存在のため、それらの国では、社会保障の全体構造が「社会保険―社会手当(失業扶助含む)―公的扶助」という三層体制から成り立っているケースが多い。この三層体制の成立については様々な要因が考えられるが、最も重要な要因の1つとして、公的扶助の前身である救貧制度の古い歴史の中で、そこに強く付きまとってきたスティグマの問題を挙げることができる。英国の救貧法の例を挙げると、自由主義と自己責任主義に基づいた資本主義の長い発展過程のなかで、「救貧法の利用者=二流市民」とされ、彼らには、道徳的な裁判ともいえるボバリズムの烙印が押され、ワークハウス内での救済によって人格的自由が奪われ、公民権をも失うということになっていた。


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