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2014/08/08

<オピニオン>張相秀の経営コラム 第3回                                                          張 相秀・サムスン経済研究所諮問役、亜細亜大学特任教授

  • 張 相秀・サムスン経済研究所諮問役、亜細亜大学特任教授

    チャン・サンス 1955年韓国生まれ。慶応義塾大学経済学修士、同商学博士。一般財団法人日本総合研究所専門研究員、サムスン経済研究所人事組織室・室長などを経て、現在は亜細亜大学特任教授。

◆サムスンに見る国富創出に果たした企業の役割◆

 国家の指導者は、選挙権を有している自国民の幸せと安全のために、リーダシップを発揮している。そのための手段(財源)として、国富の創出と拡大に総力を挙げている。それから創出された富を、何のために、どこに、どのように使うかによって政権の色と寿命が決まってくる。

 このような国富創出の主役は、第2回で述べたように、経済主体の中でも企業の役割がなにより大きいと考えられる。時代ごとに新たなマーケットを開いていくニュービジネスが次から次へと誕生し、これらのビジネスが国境を超えてグローバル化していくなかで、市場支配者として拡大成長していけるグローバル企業が多いほど国の富も拡大していくはずである。

 しかし、企業のビジネス環境は政権の交替によって影響を受けるのも事実である。アベノミクスも、日本企業の国際競争力を復活させ、国富を創出しようとの安倍政権の経済政策にほかならない。第1回で述べたとおり、日韓両国の場合、政権が変わることで経済政策が大きく変わり、時にはそれによって倒産した企業さえあり得る。要するに、2年や5年ごとに代わる政権や政策によって、国際競争力が急に変わったり、経営成果が大きく騰落する企業とは、ローカル企業ならばある面でやむを得ないとも思うが、グローバル企業としては「真の競争力」を備えているとは思えない。

 政権は言うこともなく、国家政策にも頼りすぎる経営は企業の寿命そのものを短命に終わらせる恐れさえある。国の経済政策を巧みに活用するのは良いとしても、国際競争力の決め手として経営戦略に盛り込むのは危険すぎるということである。政権が変われば、時には国政哲学やそれに基づく経済政策が180度その風向きを変えてしまうことを何度も見てきたからである。金融政策や為替政策が典型的な一例である。ここ30年だけ見ても、山あり谷ありの歩みを見せている。サムスンの創業者は、自らの経験から政権との関係を「不可近不可遠」とも表現し、経営者たちの戒めとした。


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