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2015/08/21

<オピニオン>転換期の韓国経済 第66回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

◆なぜ今労働市場改革なのか◆

 経済の活性化が求められているなかで、朴槿惠政権は2014年2月に「経済革新3カ年計画」を策定した後、4大改革(労働市場改革、公共部門改革、教育改革、金融改革)を推進している。そのなかで最優先課題に位置づけられているのが労働市場改革である。なぜ今、労働市場改革なのか。

 背景の一つに、若年層(15~29歳)を取り巻く雇用環境の悪化がある。若年層の失業率は13年の7・9%から14年に9・0%、15年4~6月期に9・9%へ上昇し、2000年以降で最も高くなった(図)。これは成長率の低下と大企業の新卒採用者数の減少以外に、中小企業による雇用吸収が進んでいないためである。中小企業に人材が向かわないのには、大企業との格差(経済面や社会的評価)が著しいことが影響している。

 さらに問題なのが非労働力化である。学業も求職活動もしない非労働力人口は2000年代前半に一端は減少したが、06年に増加に転じた後、高止まりしている。失業者と非労働力人口の増加に伴い、若年層の労働参加率はこの10年間に5ポイント低下した。

 労働市場改革が必要になっているもう一つの背景には、高齢社会の到来を間近に控えて、60歳以上定年制が16年(中小企業は17年)から法的に義務づけられるなど、雇用継続が課題になっていることがある。

 北欧諸国などでは年金給付額が増加したのに伴い仕事からの引退年齢が早まったが、韓国では公的年金制度が成熟化していないため、生活をしていくために何らかの形で就業せざるを得ない。このことは55~59歳、60~64歳の労働参加率が近年上昇していることからも伺えよう。

 定年の延長により人件費の負担が増えるとともに、若年雇用に影響が及ぶ恐れがあるため、定年の延長と並行して賃金ピーク制を導入する動きが広がり始めた。政府もその動きを政策的に後押ししている。

 15年5月、公共機関を対象にしたガイドラインが発表された。16年から60歳以上定年制を設ける一方、賃金ピーク制の導入(定年前の3~5年間)を求めるものである。

 7月には、「若年雇用のために包括的対策」が発表された。雇用機会の増加、労働市場のミスマッチの改善、雇用支援体制の改善の3本柱で構成されている。

 雇用機会の増加に関しては、公共部門での雇用増加(障害者教育、ケアサービスでの人員増加ほか)やサービス産業育成などのほか、民間企業に関するものとして、①前年より正規職を増やした企業に税制面で優遇する(1人につき1500万円)、②ピーク賃金制を導入し若年層の雇用を増やす企業に対する賃金の支援、③成長性の高い中小企業でのインターンシップ生を年に5000人にまで増やすことなどが盛り込まれた。


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