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2015/09/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第67回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第67回

◆労働改革と教育改革◆

 前回、4大改革(労働市場改革、公共部門改革、教育改革、金融改革)のなかで、労働市場改革が最優先課題に位置づけられていることについて触れた。この労働市場改革と密接にリンクしているのが教育改革である。というのは、労働市場のミスマッチ(大学生の就職難、中小企業の人手不足)の解消には教育改革が不可欠なためである。

 韓国では盧武鉉政権下で若年雇用政策が本格的に実施されるようになった。通貨危機後に労働力の需給構造が変化したことにより、若年層の失業率が高止まりし、短期的な失業対策ではなく、中長期的な取組みが必要になったことが背景にある。

 若年雇用政策の基本的な方向として、①潜在的成長力を引き上げて、新しい雇用を継続的に創出する、②産学協力を強化し産業界の需要に見合う労働力を育成する、③学校から労働市場へ円滑に移行できるシステムと労働市場のインフラを整備することが示された。

 これに沿って、公共部門による積極的な雇用創出、民間部門による雇用創出に対する支援、インターンシップ制の拡充、職業訓練と就職斡旋機能の拡充などが図られた。2008年に誕生した李明博政権は若年雇用対策に力を入れた。グローバル青年リーダー養成計画や中小企業インターン制を実施したほか、10年には「若年層の自分の仕事づくりプロジェクト」を開始した。若年層の挑戦に対して積極的に支援するもので、そのなかには、文化・観光・芸術分野で社会的企業家を育成する事業も盛り込まれた。

 また、李明博政権は労働市場のミスマッチの解消と行き過ぎた学歴主義を是正する目的から高校での職業教育の強化を図った。

 実業系の特性化高校とは別に、マイスター高校を特別目的高校の一つとして新設した。マイスター高校は産業界と連携しながら専門技術教育(造船、機械工学、半導体製造など)を実施することを通じて、安定した就職先を確保することを目的にしている。さらに、実業系高校を産業協力型特性化高校に再編した。この狙いは、産業界の協力を得て5~6年間のオーダーメード型の教育課程をつくり、特性化高校(3年間)における実習、基本教育と専門大学(2~3年間)が提供する理論・技術教育を組み合わせ、卒業と同時に就職に結びつけることである。

 朴槿惠政権はそれまでの政策を継承しつつも、独自色を出している。とくに力を入れているのがデュアルシステムの普及である。デュアルシステムの導入により、①労働市場のミスマッチ、②大学進学競争の過熱、③中小企業の人手不足問題などの解消が進むことが期待されるからである。


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