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2015/08/28

<オピニオン>韓国経済講座 第177回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第177回

◆腕力から基礎体力へ◆

 若いころはとかく腕力を鍛えがちであるが、それなりに齢を重ねるとともに持久力やスタミナが衰える。そこで基礎体力という地味ではあるが体力の土台の重要性に気付く。一般に人間が持っている体力は行動体力と防衛体力に分けられ、前者は積極的に活動していくために必要な能力のことで「形態」と「機能」に分けられる。「形態」は活動するための身体、体格のことで、機能とは持久力、筋力、柔軟性といった行動を起こすための能力のことをいう。一方、防衛体力はストレスなどに耐え、生命を維持していくための身体の防衛能力(抵抗力)をいう(図参照)。長い間トレーニングを続けているにも関わらず、一向に効果が表れてこない人は基礎体力が充分構築できてない為で、従って基礎体力という土台があればこそ技術力や戦略が活かされるので、これがしっかりと構築されていないスポーツ選手がどんなに技術力を磨く練習をしようと意味をなさないのである。

 かかる喩えになぞらえる様に、2000年代に入り韓国は完成品より素材部品領域を強化し生産構造の深化を図っている。かつて、「韓国人は新しい煙草が発売されると皆がそれを買う」と韓国の知人が話していた。そんなものかなと思いつつ聞いていたが、今から考えるとこの行動原理は意外と韓国人の動きを言い当てているかもしれないと思うようになってきた。経済においても利潤率の高く低投資の最終財には多くの企業が参入する。この経済行動は50年代に見られた現象である。当時の化学、石油、金属、機械、電気機器、輸送用機器などの生産財部門では、川下部門(組み立て部門)に生産額の83%、事業所の96%、従業員の90%が集中していた。つまり企業の殆どが組み立て加工企業で、残り企業が川中、川上部門を形成してはいたものの、素材・部品をほとんど賄えないために多くを輸入・援助に依存していた。つまり企業は低賃金労働者を大量に投入して腕力で加工、販売する低投資・高収益部門に殺到していたのである。開発初期のこうした状況は、その後の高度成長期には大企業を中心に定着したため、企業収益は上がるとともに高成長をもたらし、その結果産業構造の高度化が急速に進展したため「圧縮された工業発展」などと形容された。

 だが、それは相対的低投資・高利潤の川下部門に企業が集中し製品の最終財部門が高度化することに注目した議論で、それらを支える川中・川上部門は相対的に遅れていったのである。それを埋め合わせたのが輸入素材や部品であり、産業構造の高度化とともにすべての生産工程が同時的発展を見たわけではないのだ。見方を変えれば、これが韓国の工業化発展の特徴とみることもできる。こうした発展パターンは通貨危機まで続き、その間の素材・部品部門は継続的な赤字を出しており、明らかにこの部門は輸入依存型産業となっていた。

 ところで、97年を機に素材部品部門が貿易黒字に転じたことはあまり知られていない。01年当時、27億㌦だった部品素材の貿易黒字は、08年には348億㌦にまで増加し、14年には1079億㌦に達し、輸出総額の48%、貿易黒字の268%を占めている。


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