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2016/10/07

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第12回 金英蘭法を経済復活のきっかけに                                                    ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

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 韓国では9月28日から公務員、議員、教師等の公職者やメディア関係者への金品提供や接待を禁止する新法が施行された。新法の正式名称は「不正請託および金品など授受禁止に関する法律」であり、2011年に法律の制定の必要性を最初に提案した金英蘭・元国民権益委員長の名を取り、通称「金英蘭法」と呼ばれている。韓国では02年に「腐敗防止法」が施行され、国民権益委員会(旧腐敗防止委員会)が設置されたものの、公職者の腐敗は絶えず発生した。特に10年のスポンサー検事事件(検査への性接待事件)や11年の「ベンツ女性検事事件」は金英蘭法の制定を後押しするきっかけになった。

 前者は、釜山・慶南地域で大型建設会社を運営していた社長が10年に韓国文化放送(MBC)の代表的な調査報道番組の「PD手帳」を通じて当時の釜山地方検察庁長を含めた現・前職の検査などに約25年間にわたり、賄賂や性接待を提供したことをばらした事件である。一方、後者は、女性検事が在職中に、不倫関係にあった男性弁護士に担当していた刑事事件の情報などを提供する見返りに、ベンツの無償利用を含め、高級ブランドのハンドバッグ等を受け取った事件である。

 金英蘭法は、国会、裁判所、憲法裁判所、選挙管理委員会、監査院、国家人権委員会、中央行政機関及びその所属機関、地方自治団体、市・道の教育庁、公職有閑団体と教育機関、新聞社、放送局等のマスコミ等に適用される。また、適用対象者は当初は中央・地方すべての公職者と公企業、国公立の教職員に制限されていたが、社会に与える影響力が大きいという点から記者などマスコミに携わる従事者と私立学校教員、その配偶者が追加された。

 適用対象は約400万人と推計されており、これは韓国における労働力人口(15~64歳)の約9分の1に当たる。金品を渡す人も罰せられることを考えると、かなり多くの韓国人がこの法律の影響を受けることが分かる。

 金英蘭法の処分の基準を見ると、規制対象者の本人や配偶者が同一人物から1回100万㌆あるいは年間300万㌆を超える金品などを受け取った場合、職務の関連有無に関わらず3年以下の懲役あるいは3000万㌆以下の罰金の処罰を受けることになる。また、会食は3万㌆、贈答品は5万㌆、冠婚葬祭は10万㌆までが許容される。さらに、教員に対する飲食や贈答品の提供も原則的に禁止される。実際、学歴社会としてよく知られている韓国では、自分の子供がよりよい評価を受けられるように、担任教師などに「寸志」という、いわゆる「賄賂」を渡す風習があり、これが社会的な問題となっていた。

 最近、韓国のマスコミ報道などを見ると、金英蘭法に対する否定的な意見が少なくないことが分かる。韓国銀行は法施行により内需が萎縮されると見て、今年の経済成長率予測を当初の2・8%から2・7%に下方修正した。また、韓国経済研究院は、新法施行による経済損失が年間約11兆6000億㌆に達すると試算した。多くの経済専門家も短期的には贅沢品の消費が減少し、内需が委縮すると予測した。大手スーパーや伝統市場なども今後売り上げが大きく落ちると文句を言っている。

 一方、民間の研究機関である現代経済研究院は、金英蘭法の施行がむしろ韓国経済にプラスの影響を与える可能性があると分析した。当研究院は12年に発表した報告書で「韓国の腐敗がOECD平均水準まで低下すると、韓国の一人当たり名目GDPが138・5㌦、年平均成長率は名目基準で約0・65㌽上昇すると発表した。


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