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2016/02/12

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第37回 アジア・グローバル人材育成のための教養教育                                                    多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

  • 多摩大学経営情報学部 金 美徳 学科長

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部事業構想学科長および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆行動・解決するリーダーの育成を◆

 日本企業は最早、アジアの経済成長を取り込む戦略、すなわちアジアの市場開拓(販売・調達・生産)やヒト・モノ・カネ・情報の取り込みなくして生き残れない。また、これらのアジア戦略を企画・推進・支援するグローバル人材の採用・育成・登用も急がれている。さらには、アジア・グローバル化に対応できる組織改革も必要であろう。これらのアジア戦略の策定、グローバル人材制度の整備、グローバル化に対応できる組織改革は、大企業だけの問題でなく、中小零細企業も同じである。また、韓国企業や中国企業などアジア企業とて事情は、同じである。もしかすれば主観的意見であるが、むしろ日本の中小企業やベンチャー企業の方が、日本の大企業やアジア企業よりも機動力や柔軟性があり、迅速に対応かつ適応できる可能性を秘めているかもしれない。

 今、アジアの日本へのインパクトが最も大きいのは、インバウンド(訪日外国人観光客)である。観光庁によると2015年訪日外国人観光客は、前年比47・1%増の1973万人、また消費額が前年比71・5%増の3兆4771億円に上り、それぞれ過去最高を記録した。その要因は、ビザ発給要件の緩和、円安、LCC路線やクルーズ船の増加などがある。国・地域別順位は、1位中国人499万人(25・3%)、2位韓国人400万人(20・3%)、3位台湾人368万人(18・6%)となっており、東アジアの3つの国・地域で全体の3分の2近くを占めている。1人当たり消費額は、前年比16・5%増の17・6万円であるが、中国人に限っては1・6倍の28・4万円である。インバウンドは、13年に初めて1000万人を突破してから僅か2年で、2倍の約2000万人に急拡大した。その経済的波及効果(生産波及効果、付加価値効果、雇用効果)は計り知れず、今や日本の経済と景気を牽引していると言っても過言でない。資生堂は、所謂「爆買い」対応で化粧品を増産するため400億円を投じて大阪に新工場を建てるほどである。したがって日本企業は、アジアに進出するか否かを躊躇している間にアジアのインパクトがインバウンドという形で日本国内に押し寄せてきているのである。これは、観光業やサービス業だけでなく、製造業や農業に至るまですべての業種に関わってきている。そこでアジアのインパクトを取りに行くにせよ、取り込むにせよ大切なことは、アジアダイナミズムと真正面から向き合うことである。

 今号からは、アジア・グローバル人材育成のための教養教育について連載を始める。昨今、日本企業において社員向けに韓国・中国・東南アジア・インドなどアジア教養(アジア・リベラルアーツ)についての企業研修が増えている。例えば日本国内においてインバウンド向けマーケティング、所謂「アジア・マーケティング」である。また、アジアからの工場・施設・設備などの受注の増加に伴い、これらを現地に建設・設置するのに長期間、寝食を共にするとともにコミュニケーションが必要となる。この時、相手の国をどのように理解し、どのような会話をしたらよいのか、逆にどのような会話をしたらダメなのかという相談が増えている。


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