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2016/04/08

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第39回 アジア・グローバル人材と北朝鮮に関する教養教育②                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター 金 美徳 センター長

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆リスクではなくチャンスと捉えよ◆

 グローバルビジネスの世界では、北朝鮮、シリア、イラン、イスラエルなどに関するレポートや情報が出回っており、これらを高価で購読・入手し、トレンド分析やビジネスに活用している。なぜならばこれらの国は、国際情勢や世界経済の変数であるが、重要なファクターとなるからである。したがって北朝鮮が嫌いだといって冷静な理解を怠れば、国際情勢を正しく判断できなくなる。また、平和やグローバルビジネス・トレンドに鈍感になるだけでなく、時代遅れにもなり兼ねない。

 北朝鮮研究は、どのような立場や視点で分析するかによって見えてくる北朝鮮のみならず、朝鮮半島の姿さえ違ってくる。また、それに基づく国家の外交・通商戦略や企業のグローバル戦略も違ってくる。

 そこで世界の北朝鮮研究の方法論を大きく5つに分けて紹介する。1つ目は、「北朝鮮悲観論」である。これは、主に日本の論文に多く見られる。「北朝鮮悲観論」では、「北朝鮮は近い将来、崩壊する」と30年以上も主張し続けているが、未だに崩壊していないことから説得力がない。この原因は、日本の北朝鮮研究の水準に問題があると言わざるを得ない。

 日本の現代韓国朝鮮学会には、約300名の会員が所属しているが、純粋に北朝鮮だけを研究をしている会員は40名程度に過ぎない。一方、韓国には、北朝鮮研究に特化した北朝鮮学会があり、会員数も400名に上る。また、大学には北朝鮮を専門に扱う大学院・学部・学科があり、政府・自治体・企業・金融機関には北朝鮮を扱う部署も設けられている。

 2つ目は、「北朝鮮楽観論」である。これは、北朝鮮の政治体制や経済政策の正当性を主張する論で主に北朝鮮の論文である。しかし現実的に北朝鮮経済が破綻している状況の中では、政策が正しいとは到底言えず、信頼に足らぬ論である。日本には、この論に立つ研究者は殆んどいないが、韓国の北朝鮮研究者の中には意外といる。但しこの論者の主張が行き過ぎると、韓国では国家保安法違反で逮捕対象となり兼ねない。

 3つ目は、「南北経済共同体推進論」である。これは、北朝鮮の改革開放を促し、南北経済共同体の形成を推進する理論である。これは、韓国の文献に多く、主流となっている。ただ度々、理論や予測の軌道修正を余儀なくされている。これまで金大中・盧武鉉政権は、南北対等の立場で経済共同体を推進していたが、李明博・朴槿惠政権以降は韓国主導で経済統合を進める論理に変化している。すなわち対等合併論から韓国主導の統一論へと論理が転換されたということである。

 4つ目は、「北朝鮮管理論」である。これは、主として米国と中国の見方である。米中は、自らの国益と外交戦略にしたがって北朝鮮をいかに管理するかに関心があり、必ずしも統一を願うわけではない。自国の国益に資すれば統一を支持するが、そうでなければ支持しないということになる。現時点では、北朝鮮問題を「フリーズ」にして置くことが一番の国益にかなうと考えている節がある。つまり現状では、統一してもしなくても構わない。自国の戦略上、北朝鮮問題をどのように管理するかが最優先順位となっているのである。


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