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2016/06/10

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第41回 アジア・グローバル人材と北朝鮮に関する教養教育④                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆経済開放し外資の積極的な受け入れを◆

 北朝鮮は、相変わらず国際社会や世界メディアを賑しており、2016年5月6日~9日には第7回朝鮮労働党大会が36年ぶりに開催された。党大会は、金正恩第1書記の朝鮮労働党委員長の就任を決め、内外に「金正恩時代」の本格的な幕開けを印象付けて閉幕した。党大会の評価は、賛否両論である。批判的意見は、「最高指導者としての権威をさらに強めて忠誠と服従を求める狙い」、「国際社会の警告を無視した核保有国という身勝手な主張」、「恐怖政治や恫喝外交は権力基盤が定まらないゆえの虚勢に過ぎない」、「金正恩の偶像化」、「核開発と経済発展を同時に進める並進路線は矛盾している」、「国勢の凋落は明らかである」などというもの。

 一方、評価する意見としては、「金正恩党委員長は、政治手腕があり体制も安定している」、「金日成主席が党を、金正日総書記が軍部を、金正恩党委員長が内閣を掌握した」。また、「シビリアンコントロール(文民統制)を目指している」との見方もある。すなわち軍部統制から文民統制へのシフトである。これは、軍部の存在感を相対化することになり、党と軍部と内閣の均衡が図られれば民主化に向けて大きな一歩を踏み出すことになる。

 前号に引き続き北朝鮮を4つの経験知の観点から分析し、北朝鮮独特の論理を紹介する。筆者の経験知の1つは、1995年~97年の3年間(毎年1~2カ月間の集中講義)、金日成総合大学経済学部財政学科国際金融コース3年生90名(30名×3年間)と国家社会科学院の若手研究者10名、合計100名を対象に招聘講師として「資本主義経済・経営」について約200講義を行ったことである。

 授業の印象は、以下のようなものであった。学生は、大変まじめであった。筆者の体に穴が開くのではないかというほど集中された。この北朝鮮の学生が、韓国や日本に来ればすぐに弁護士や医者になるのではないかと思うほどである。当時、日本の他大学で教えていたが、日本の学生は居眠っていて、北朝鮮の学生はよく聞いてくれる。言い換えると日本で自信喪失し、北朝鮮で自信を得るという複雑な経験をした。また、書面の質問を受けたが、100個以上に上り、嬉しさよりも怒りを感じるほどであった。その内容は、「日本経済は、どのようにして成功したのか」、「日本は、どのようにして無から有を生み出したのか」などである。また、変わった質問としてヒラメや武器などの値段を聞かれたが、さすがにこれは答えられなかった。学生は、超エリートであり、党幹部、大学副学長、地方自治体の首長などの子息・令嬢であった。そのためか餓死者が続出している中でも女子学生はお化粧をしており、品位もあった。また、7~8年の軍隊経験をした「除隊軍人」という学生が多く、年齢が33~34歳で家庭持ちもいた。ただ「除隊軍人」は、クラスの班長や党秘書などリーダー格であるにも関わらず、頭が固く、勉強があまり得意でない学生もいた。一方、「直通生」という現役生や女子学生は、頭が柔らかく、呑み込みが早かった。

 エピソードとしては、いくら資本主義を教えろと言ってもやはり社会主義の国であるので、遠慮して気を使って資本主義の問題点や社会主義の優越性の話も混ぜて教えたところ、担当の講座長からクレームがあった。その内容は、「資本主義の問題点は、我々が教えるからあなたは資本主義の良さ・優位性を教えろ」というものであった。これは、お金の稼ぎ方や外資の行政管理・徴税の方法を教えろということである。そして躊躇と戸惑いを吹っ切って要望通り資本主義の良さ・優位性、さらには素晴らしさを徹底して教えた。


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