ここから本文です

2016/03/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第73回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第73回

◆サムスン効果◆

 前回、前々回に続いて、サムスン電子によるベトナムの生産拡大の影響について考える。

 今回はサプライチェーンにどのような変化が生じているのかについて触れる。まず、ベトナムの電話機部分品(HSコード851770)の輸入動向をみると、サムスン電子による携帯電話機の生産開始に伴い増加してきた。輸入の大半は韓国と中国からであり、同社の中国と韓国の工場から半製品がベトナムに輸出されて、最終製品に仕上げられていることがわかる。

 現地生産が本格化していく過程で、サムスンSDI、サムスン電機、サムスンディスプレイなどの系列企業がベトナムへ進出した。サムスンSDIは携帯電話機用バッテリー、サムスン電機は部品やカメラモジュールなどを主として生産しており、現地での調達率が上昇しているものと考えられる。

 他方、携帯電話機に搭載されるメモリー、プロセッサー、印刷回路・プリント基板の輸入先をみると、韓国や中国に加えて、日本や米国、シンガポールなどが上位に入っている。

 では、日本にどのような影響をもたらしているのだろうか。日本の14年、15年のアジア各国向け輸出額(ドル建て)をみると、2年連続でプラスになったのはベトナムとカンボジアのみである。15年の全体に占めるベトナム向けの割合は2・0%であるが、インドネシアやマレーシア向けを上回ったことに注意したい。

 ベトナム向けが増加しているのは、①同国が比較的高い成長を続けていること、②とくに輸出が堅調に推移していること、③海外からの直接投資が拡大傾向にあることなどが指摘できる。②と③に関しては、サムスングループが相当程度寄与している。

 日本への影響を具体的にみよう。まず、積層セラミックコンデンサーを取り上げる。積層セラミックコンデンサーはセラミックスの誘電体と金属電極を多層化することにより小型・大容量化を図ったチップ型コンデンサーで、携帯電話に多く搭載されている。かつては日本企業が生産をほぼ独占していたが、数年前から韓国企業や中国企業も生産している(一部の日本企業も中国、韓国で生産)。ただし高機能スマートフォンには、日本企業製品が多く使用されている。

 近年の輸出動向をみると、日本から韓国への輸出額はやや頭打ちになっているのに対して、ベトナムへの輸出額は増加基調で推移している。ベトナムの積層セラミックコンデンサー輸入額に占める割合(14年)は、日本31・1%、韓国12・7%である。

 つぎに、スマートフォンに多く搭載される部品の日本からの輸出額を08年と15年で比較すると、韓国や中国向けなどが総じて減少したのに対して、ベトナム向けは著しく増加したことが明らかになった。


つづきは本紙へ


バックナンバー

<オピニオン>