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2016/08/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第78回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第78回

◆注目したいポスコのリストラ◆

 韓国では低成長が続くなかで、企業業績が総じて悪化している。ポスコも例外ではない。鋼材価格の下落により、12年以降営業利益が大幅に減少し、営業利益率は13年以降5%弱とリーマンショック(08年9月)前の3分の1以下へ低下している。注意したいのは世界的な過剰生産のほかに、2000年代以降積極的に推進してきた事業の拡大が業績悪化につながったことである。

 この背景には、国内の鉄鋼産業の成熟化とならんで、現代自動車グループによる鉄鋼内製化の動きがあった。ポスコは国内でのシェア低下に直面することになったため、①世界の主要自動車メーカーに対する自動車用鋼板の供給拡大、②新興国での事業拡大、③事業の多角化などを推進することにした。

 新興国での事業はアジアを中心に展開してきており、とくに近年は自動車用高級鋼板の生産に力を入れている。中国ではステンレス鋼板の生産を開始した後、自動車生産の急増を受けて、13年に広東省、その後重慶市で溶融亜鉛メッキ鋼板の生産(重慶鋼鉄集団との提携)を開始した。また、重慶鋼鉄とはポスコが開発した低コストの製鉄法「ファイネックス工法」 を採用した一貫製鉄所を建設することで合意している。

 インドでは05年、オリッサ州で高炉一貫製鉄所を建設する計画を発表した。経済発展に伴う鋼材需要の増加が見込めることとオリッサ州が鉄鋼石の産地であることが背景にある。しかし、環境影響調査や用地取得で難航し、中断している(15年7月に計画を凍結)。他方、下工程に関しては、12年にマハラシュトラ州で溶融亜鉛メッキ鋼板、14年に冷延鋼板の生産を開始した。

 インドでの高炉建設が中断している間に、インドネシアで13年、同国のクラカタウスチールとの合弁で東南アジア初の高炉一貫製鉄所を建設した。このほか、ベトナムのホーチミン近郊で09年、自動車やオートバイ向けに冷延鋼板の生産を開始している。アジア以外では、メキシコで09年に溶融亜鉛メッキ鋼板の生産を開始している。

 海外事業に続き、ポスコは09年に新会長に就任した鄭俊陽会長の下で、事業の多角化を推進した。鉄鋼石鉱山の開発のほか、総合商社の大宇インターナショナルや産業設備メーカーのソンジンジオテック(後のポスコプランテック)の買収、ポスハイアル(超高純度アルミナの生産)の設立、光陽LNGターミナルの株式取得などが含まれる。

 短期間にM&Aを活発に行った結果、系列企業数は09年の36社から12年に70社へ急増し、グループ全体の資産額も著しく増加した一方、買収に巨額の費用を要したため債務額も膨れた(上図)。

 経済環境の悪化もあろうが、こうした内外で積極的に推進した事業が業績悪化の一因になった。ポスコの連結決算資料によれば、15年は、連結対象の海外法人171社のうち106社が赤字となった(最大の赤字額はインドネシアのクラカタウポスコ)。また、ポスコプランテックは15年に系列会社のなかで最大の赤字になっただけでなく、買収した資金の不正流用も明るみになり、ガバナンスが問われることになった。


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