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2016/10/21

<オピニオン>転換期の韓国経済 第80回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第80回

◆存在感を増すベトナム◆

 韓国の対外経済関係において、ベトナムの存在感が高まっていることは以前指摘した。ベトナムはいまや中国、米国に次ぐ3番目の輸出相手先になっている。対ベトナム輸出依存度(対ベトナム輸出額/総輸出額)は2010年の2・1%から15年に5・3%、16年(1~8月)には6・4%へ上昇した。

 他方、対日輸出依存度は低下傾向にあり、15年4・9%、16年4・8%である。日本のGDPの約25分の1に過ぎないベトナム向け輸出が日本向けを上回ったのは実に興味深い(上図)。この背景に、韓国企業による投資が拡大し、それに伴い韓国から生産財や資本財の輸出が誘発されていることがある。

 韓国の対外直接投資額(韓国輸出入銀行データ)の推移をみると、近年中国向け直接投資額が総じて減少傾向にあるのに対して、ベトナム向けは安定的に推移している。16年上期は、投資金額では米国、ケイマン諸島、中国に次ぐ4番目、投資件数では最多となった。注目したいのは15年に続き16年上期も、中小企業の投資先では、金額および件数ともにベトナムが最多になったことである。投資の裾野が広がっていることを示している。

 サムスン電子やLG電子が生産拠点をベトナムへ相次いでシフトしている。ベトナムが選択された理由として、ベトナム政府の積極的な誘致や中国と比較しての生産コストの低さ、韓国との地理的近接さ以外に、①電子部品産業が集積している中国華南地域に隣接していること、②TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に参加していること、③15年末にASEAN経済共同体が発足したことなどが指摘できる。総合的にみて、ベトナムが世界市場あるいはASEAN市場向けの生産拠点として適しているとの判断によるものであろう。また、9千万人強の人口規模を有している上、人口構成面で若年層が多いため、市場としても期待できる。

 こうしたなかで、現代自動車グループが15年、ベトナムで約6万2千台を販売し、トヨタを抜いてシェア1位(29・8%)になったのが注目される。販売を牽引したのが、現代自動車の小型車「グランドi10」と起亜自動車の小型トラック「K3000」であった。なお、起亜自動車は地場最大手のTruong Hai社に自動車の組み立て・販売を委託している。

 ハノイへ行くと、起亜のモーニングがタクシー車として使用されていることに気がつく。

 ポスコは09年、ホーチミン市近郊にある現地工場を買収し、自動車やオートバイ向けに冷延鋼板、ステンレス鋼板の生産を開始した。近年、中国からベトナムに生産拠点を移す動きが広がっていることもあり、現地での鋼材需要が増加している。ベトナムでの冷延鋼板の生産に伴い、韓国から冷延鋼板の輸出が減少した一方、母材である熱延鋼板の輸出が増加した。

 製造業だけでなく、サービス分野での投資も増加した。ロッテグループは90年代にロッテ製菓が進出した後、ディスカウント店のロッテマートの第一号店を08年ホーチミンに出店した。ロッテマートは15年現在10店舗となり、20年までに60店舗に増やす計画である。また、ロッテリア、ロッテホームショッピングなども進出している。


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