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2016/02/26

<オピニオン>韓国経済講座 第182回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第182回

◆為替効果が効かない◆

 円安が韓国経済に最も被害を及ぼした。2月17~18日にソウル大学で開かれた「2016経済学共同学術大会」を報じた韓国経済新聞(2月19日)によると「韓国技術教育大学のチェ・ドヨル産業経営学部教授と朴勝祿・漢城大経済学科教授は「円安の近隣窮乏化の効果分析」論文で、「日本の円安政策は主要19カ国の中で韓国に最も大きな被害を与えることが明らかになった」と説明したという。原典を見ていないので具体的なことはわからないものの、この点だけ見れば、日韓の輸出財の共通性、第三国市場での日本財の価格競争力向上などを考慮すれば韓国の輸出財生産に影響を及ぼすことは容易に推測されよう。長い間の円高・デフレ体質を改善する政策が韓国では近隣窮乏化政策と映るのだ。

 ここで誤解の無いように正しておくと、近隣窮乏化政策とは固定相場制下にある通貨を国際収支改善の目的で意図的に切り下げた場合に他国に及ぼす悪影響のことを言うのであり、国内対策として金融政策を実施することによって結果として通貨安を招いたものは近隣窮乏化とは言わない。但し、安倍政権は当初、「大胆な金融緩和の目的として、為替レートの円安誘導を明言し、手段として外債購入に言及したり、為替レートの誘導目標水準まで言い続けた」事実があり、近隣窮乏化ととられても致し方ない。

 ところで、リーマンショック後に見られた多くの国での金融政策(大規模財政出動)は通貨安戦争を引き起こしており、円安もその一環である。各国の財政出動が10年以降になり金融緩和効果が表れ、為替市場で通貨安を導いたため、「通貨安戦争」などと呼ばれており、G20などでこれを抑制する議論が行われている。

 韓国も15年下半期に政策金融19兆ウォンと地方自治体追加経費12兆ウォンなど46兆ウォン以上の財政・金融資金を動員した景気浮揚策を推進した。しかし、民間消費や建設投資、設備投資が比較的堅調に伸びた一方、輸出が不振だったこともあり、実質GDP成長率(速報値)15年第4四半期前期比0・6%、15年通年では2・6%と振るわなかった。財政投入による金融緩和からウォン安に導かれることから輸出は増加すると考えられるが、現実には輸出が低迷した。つまり、15年は輸出が前年比8・0%減の5269億㌦、輸入が16・9%減の4365億㌦となり、貿易収支は過去最大の904億㌦の黒字を記録したものの、原油価格の下落による製品価格の低下が、輸出入減少の要因となり、1兆㌦貿易立国の名を返上した形となった。輸出減少の理由は原油価格の影響だけではなく、輸出総額の26%を占める中国が15年5・6%減、16年1月も対前年同月比で18・8%減と減少していることが最大の理由であろう。

 上で触れたような財政投入による通貨安効果が出なかったのであろうか。直近のウォンレートの状況を見ると、対ドル、対円、対元に対していずれもウォン安に推移していることが分かる。つまり理屈通りの効果が表れているにもかかわらず、ウォン安が輸出を伸ばすという価格競争力が機能しておらず、ウォン安効果を上回る輸出低下要因が作用しているのである。


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