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2016/04/22

<オピニオン>韓国経済講座 第184回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第184回

◆政府の底力とは?◆

 財政だけは良好な水準だと思われてきた韓国が赤字に転落した。政府は2016年4月5日、国務会議(閣議)で15年度の国家決算を議決し、企画財政部が発表した「2015会計年度国家決算」によると、管理財政収支が38兆ウォンの赤字となった、と報じた。管理財政収支とは、総収入から総支出を引いた後、国民年金、雇用保険など社会保険性基金の黒字分を除いた数値を指す。財政収支が赤字になったのは、IMF危機以降初めて。昨年、経済協力開発機構(OECD)は「2015財政状況報告書」において韓国を「財政の健全性最優秀国」に挙げ、国際通貨基金(IMF)も15年5月に、韓国の財政健全性と財政余力をノルウェーに次ぐ世界で2番目と高く評価したと報道されたばかりだ。

 政府発表によると、中央政府と地方自治体による国家債務は1年間に57兆3000億ウォン増え、過去最高の590兆5000億ウォンと国内総生産(GDP)の37・9%に達した。これに公務員・軍人年金への充当負債(今後75年間に退職公務員や軍人に支払う年金)を加えた広義の国家債務も過去最高の1284兆8000億ウォンに達すると集計されたという。

 財政悪化の傾向は韓国のみならず多くの国で見られる。特にリーマンショックを引き金にした世界金融危機への対策として、多くの国は大規模財政投入と金融緩和を行ったことが財政赤字を生み出している。韓国も金融危機以降、世越号沈没事故、15年5月以降の中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス感染問題など国民消費の萎縮をもたらす社会問題が続いたことで税収が低迷してきた。景気のてこ入れをするため15年に11兆6000億ウォン規模の追加補正予算を編成し、財源を国債発行で埋めるなど積極的な財政政策を採ったため、今期の赤字計上となった、というのが政府の説明だ。

 しかし、この説明はいわば計算上の説明であり、如何にも担当者の言い訳に聞こえてならない。少しきつい表現かもしれないが、単年度赤字とは言え税制への評価、税収と投資支出への検討など収支を生み出す構造要因に敢えて触れない説明である。もう少し客観的に見てみよう。

 掲げた表は、統計を取るようになった95年以降の財政収支とプライマリーバランスの推移をプロットしたものである。プライマリーバランスとは、国債費関連を除いた基礎的財政収支のことで、国債の利払いと償還費を除いた歳出(一般歳出)と、国債発行収入を除いた歳入(税収など)についての財政収支だ。つまり、プライマリーバランスとは、国民から集めた税金と国債(国民からの借金)による国の収入と公共事業や外交などの一般的活動に要する支出の釣り合い状態を見るものである。

 そして、税収で一般歳出が賄われていると、国の財政状態は正常で、プライマリーバランスが均衡しているという。しかし、一般歳出が税収より大きくなると、税収に加えて国債からの収入を充てることになり、これをプライマリーバランスが赤字であるという。

 表を見ると財政収支は15年まで黒字を続けており、金融危機の影響がそのまま反映した09年を除けば、単年度財政の健全化は明らかである。しかしこれでは財政構造は分からない。簡単に言えば、中央政府が抱え込む556兆5000億ウォン、地方政府の34兆ウォンにものぼる国家債務返済(国民1人当たりの国家債務は1166万ウォン)の状況はここでは反映されていない。


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