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2016/04/29

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第7回 最低賃金未満で働く若者が増加                                                    ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

  • 曲がり角の韓国経済 第7回 最低賃金未満で働く若者が増加

◆企業に対する労働監督や処罰基準の強化を◆

 今回は韓日における最低賃金の現状を比較しながら、韓国における最低賃金の課題について述べたい。まず、日本における2015年の最低賃金の全国平均は798円で、前年の780円より18円ほど高くなった。日本の最低賃金は2000年以降、継続的に引き上げられており、特に2000年代後半からの引き上げ幅が大きい。その理由としては「最低賃金法の一部を改正する法律」が、08年7月から施行されたことが挙げられる。同法では就業形態の多様化等が進展する中で、最低賃金制度が賃金の低い労働者の労働条件の下支えとして、十分に機能することを求めており、最低賃金を引き上げることによって、働く貧困層対策につなげようとしていたのである。また、最低賃金で働く人の手取り収入が生活保護の支給額を下回る「逆転現象」を解消することも一つの目的であった。

 一方、韓国の最低賃金の水準はどうだろうか。日本との比較のためにウォン・円の為替レート(1 ㌆=0・102円、15 年 10 月4 日基準)を適用し、日本円に換算した16年の韓国の最低賃金は615円(6030㌆)で日本の798円よりは低いものの、対前年比の引き上げ額は46円(450㌆)で日本の18円より高い。さらに2000年から15年までの韓日における最低賃金の対前年比引き上げ率の推移を見ると、全ての年において韓国の引き上げ率が日本より高く、この期間の最低賃金の対前年比平均引き上げ率も韓国が8・5%で日本の1・3%を大きく上回っている。

 韓国の最低賃金の対前年比引き上げ率が日本より高い理由は、元々最低賃金の水準が低く設定されていたことや、日本とは異なって毎年物価が上昇しており、物価上昇率が最低賃金の決定に影響を与えていることが考えられる。韓日ともに最近、最低賃金の引き上げ率を高めている背景には、経済のグローバル化による企業競争の激化により労働力の非正規化が進んでいることが挙げられる。15年における日本と韓国の非正規雇用労働者の割合はそれぞれ37・5%と32・5%まで上昇しており、いまや労働者の約3人に1人が非正規雇用労働者として働いている。

 韓日における最低賃金の大きな違いは日本が地域別に異なる最低賃金が適用されていることに比べて、韓国は全国的に統一された一つの最低賃金が適用されていることである。その結果、日本では最低賃金が最も高い東京(907円)と最も低い沖縄、宮崎、鳥取、高知(693円)の間に214円という差が出ていることに比べて、韓国は6030㌆(16年)という一つの最低賃金が全国に適用されており、地域間における差は発生していない。

 他の国と比べた韓日における最低賃金の水準は、それほど低い方ではないが(14年基準で日本は7・21㌦で11位、韓国は4・94㌦で14位、比較対象はOECD加盟国)、正規労働者の平均賃金に対する最低賃金の水準はまだ低い水準である。14年における韓日の平均賃金に対する最低賃金の水準はそれぞれ33・8%や35・7%で、OECD主要28カ国の平均39・3%を下回っている。さらに、問題は韓国では最低賃金未満で働いている若者が多く存在していることである。

 韓国の現代経済研究院が16年4月に発表した報告書によると、最低賃金未満で働いている若者(15歳~29歳)の数は11年の44・9万人から15年には63・5万人まで急増した。これは、若者(15歳~29歳)雇用者の約17%、つまり6人のうち1人は最低賃金未満で働かされていることを意味する。特に、最低賃金未満で働いている若者の割合は、15~19歳の年齢階層や高卒者、そして小企業やサービス業で働いている雇用者の方でより高く現れている。最低賃金法には事業主が労働者に最低賃金を支給しなかった場合、3年以下の懲役または2000万㌆以下の罰金に処すると明記されている。


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