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2016/06/24

<オピニオン>韓国経済講座 第186回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第186回

◆匠の技を貯め込め◆

 韓国の研究開発投資額の対GDP比率が、OECD諸国で最も大きい。2014年基準におけるGDPに占めるR&D投資比率は、韓国4・29%で、OECD34カ国と主要新興国7カ国を合わせた41カ国の中で1位となったという。2位はイスラエル4・11%、3位日本で3・58%、4位スウェーデン3・2%、5位フィンランド3・2%、6位デンマーク3・1%と続く。

 韓国のR&D開発に対する努力はIMF危機以降、02年の「第1次科学技術基本計画(02年~06年)」から07年第2次計画(08年~12年)」、13年「第3次計画(13年~17年)」と三次にわたる基本計画の下で総合的に進められてきた。その中で、金大中政権下では新成長動力企画団により「新成長動力ビジョンと発展戦略」が打ち出され、次の盧武鉉政権下では「参加型政府の科学技術基本計画(03年~07年)」、李明博政権下でも「先進一流国家に向けた李明博政権の科学技術基本計画(08年~12年)」、「緑色技術研究開発総合対策」が出され、そして朴槿惠政権下では「創造経済実現計画」を実施するなど、各政権が独自の科学技術政策を行っている。

 韓国のR&Dの四分の三は民間企業が占め、その4割はサムスン電子によるものと言われ、R&D投資の独占化が韓国の特徴である。これまで、政府の積極的な政策展開に民間企業のイノベーション戦略は依存してきた。政府の政策思考は、「科学技術のキャッチアップ」であり、かつての貿易戦略に見られた思考である。そのために大企業は高学歴の良質な人材育成と上で見たように、大規模R&D投資を行ってきたのである。こうしたイノベーション戦略は追撃型としては競争力が強く、韓国の技術発展・産業発展に大きく貢献してきた。

 しかしながら、追撃型戦略で力点が置かれるのは製品開発分野であり、基礎原理への研究や応用技術への開発は十分行われないという特徴もある。企業の研究姿勢も政府政策に呼応することで、オンリーワン技術よりナンバーワン技術に価値が置かれてきた。こうして韓国の技術開発戦略は追撃には強いが自ら新たに生み出す創生型の研究開発には適してこなかったのである。その結果、基礎技術の蓄積は少なく、中小企業における製品・技術シーズ(種=ノウハウ)も日本に比べると十分ではない。そのことは、技術貿易の推移にも表れている。

 技術貿易とは、特許、実用新案、知識、技術上のノウハウの提供や技術指導等を権利譲渡、実施許諾などの形で国際的に取引することをいう。これらの技術は、科学技術に関する研究活動の成果でもあり、技術貿易収支は、企業の技術力・産業競争力を把握する重要な指標の一つとされている。また、技術貿易は、技術の提供や受入れにより海外の技術の実態を把握することができ、自国の技術水準や技術開発力を客観的に見ることができ、海外と自国との技術上の結びつきを強めたり、民間企業などの国際競争力を高めることが可能になるといわれている。

 表に見られるように、韓国の技術貿易収支は継続して赤字で、韓国の技術取引が輸入依存的となっているのだ。ちなみに、13年の技術輸出額は68億4600万㌦に対して、輸入額は1億3800万㌦に達し52億㌦の赤字を計上しており、この赤字規模はOECD加盟国の中で最大となっている。


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