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2016/09/30

<オピニオン>韓国経済講座 第189回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

  • 韓国経済講座 第189回

◆中国・延吉良いとこ…◆

 最近延吉に行くとこんな言葉をよく耳にする。「田舎から出てきた人は上からごみを平気で捨てて汚いわ」、「タクシーに乗ってて窓からかまわずごみを捨てるよ」。少し前に中国人旅行者が、子供がおしっこを我慢できないので電車の中でさせたことが話題になったことを思い出した。延辺朝鮮族自治州の州都延吉市に住んでる人が集合住宅の上の階の地方出身者が窓から外にごみを捨てるとこぼしていた。

 筆者は1992年以降2~3年に一度程度訪れているが、近年の延吉の変貌ぶりは目を見張るばかりである。特に目立つのは2013年の州設立60周年記念を契機に市内の外観が大きく変貌したことだ。市街地の主要な建築物にLEDライトで装飾した夜景には誰もが目を奪われる。その電気代は毎月100万元(1533万円)と言われている。ここ数年は、これまで農地であった市内の西部に吉図琿高速鉄道(西の起点吉林市から終点琿春市まで)の西延吉駅の建設とその前を延吉図們高速道路(長春~琿春高速道路の一部)の建設により、西延吉駅を起点に大手不動産会社による超大型ショッピングモールや高層住宅街建設など市内西部開発が急速に進んでいる。従来の延吉市の中央部、工業団地の東部と合わせ開発と近代化の進展が延吉市のドーナツ化現象に拍車をかけている。人口集中と都市開発は開発途上国の発展初期に見られる代表的現象であるが、延吉はその最中にある。人口の市内での移動、州内移動、省内外移動による社会増加は住宅建設、商業施設建設、病院・学校などの福祉・教育施設建設を促し、都市の許容量を拡大させる。そのことが新たな人口移動を促す「いたちごっこ・ねずみごっこ」を繰り返して都市集中度を高めている。

 一般的に都市化とは、ある地域の人口が都市または都市部に集中する過程をいうが、中国の場合、統計に表わされた数値と実態とは異なることに注意しなければならない。統計数値は人口数ではなく戸籍数であるため、現実は戸籍を移動せずに人だけ移動するため、人間の数としてみると都市では過少に、農村では過剰に表れるのだ。

 中国の戸籍制度に関しては、様々な経緯があり、1958年の「戸口登記管理条例」制定以来「都市戸籍」と「農村戸籍」に分け移動制限を厳しく管理してきた。78年の改革開放以来都市の労働力需要の高まりで85年に都市部での「暫定戸籍」の発行などで人口移動と都市での社会サービスの需要を認めてきた。しかし現実には、正式に身分保障される者以外の多くの農民はそのまま不法に滞留することで都市化の膨張に拍車をかけてきたのである。

 延辺州の場合は、隣接する北朝鮮の脱北者返還もあり、北朝鮮女性の労働輸出、即ち彼らの市内飲食店での就業も多く行われており、延吉市の人口集中にはこうした要因も含まれている。その推移を延辺州と延吉市の統計でグラフに表わしてみた(上図)。都市化率は都市人口の総人口に占める割合(都市化率=都市人口/人口×100)で表される。

 都市人口が半分を占めるようになったのは延辺州では85年頃からであるのに対して、延吉市では新中国設立以来からである。14年では延辺州67%、延吉市87%にまで都市化率が高まっている。延辺朝鮮族自治州は延吉市、図們市、敦化市、琿春市、龍井市、和龍市、汪清県、安図県の4市2県から成るが、都市化率が上昇しているのは開発が進む延吉市と琿春市のみで、他の市県はすべて低下していることから州内からの延吉流入者が増えていることが窺われる。しかし延吉の都市化率上昇はむしろ省内外からの流入が多い。内陸の黒竜江省からの移住者が多いことは、何人かの現地でのインタビューでも耳にしており、地方出身者が市内に増えていることが裏付けられる。


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