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2017/01/13

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第15回 格差解消し「ヘル朝鮮」を「ヘブン朝鮮」に!                                                  ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆今こそ未来に向け皆が知恵を絞る時◆

 朴槿惠大統領が当選する前に韓国の若者の間では「三放世代」という言葉が流行していた。これは、食べていくのに精一杯で恋愛、結婚、出産を諦めた世代を意味する。2012年12月の大統領選挙で当選した朴槿惠大統領は、若者を巡った韓国社会の問題点を認識し、実施すべき最重要課題として「雇用の拡大」や「中産階級の復元」を挙げた。国民は雇用の創出や経済格差の解消を期待していたものの、4年が経った現在、状況はさらに悪化し、「ヘル(地獄)朝鮮」や「スプーン階級論」という言葉まで流行するほどに格差はより深まることになった。

 スプーン階級論は、韓国社会の二極化や所得格差を如実に表している表現であり、親の資産や収入が多い順にダイヤモンド、金、銀、銅、泥のスプーンに区分される。これは西洋の「born with a silver spoon in one's mouth(口に銀のスプーンを入れて生まれる)」に由来しており、親の職業や経済力などによって子世代の階層(スプーン)が決まるという意味である。

 このスプーン階級論を参照すると、昔のようにドブ(泥スプーン)から龍(ダイヤモンドや金のスプーン)が出ることは難しい。さらに、5年前の「三放世代」は、今では人間関係(就職)やマイホームをも諦める「五放世代」や、さらに夢や希望まで加わった「七放世代」と言われるまで悪化した。

 就業ポータルサイトである「サラムイン」が15年に20代や30代を対象(2880人)に実施したアンケート調査によると、「恋愛、結婚、出産、人間関係(就職)、マイホームの中で諦めたものがありますか?」という質問に対して、回答者の約57・6%が「ある」と答えている。項目別には結婚を諦めた人が50・2%で最も多く、次はマイホーム(46・8%)、出産(45・9%)、恋愛(43・1%)、人間関係(就職)(38・7%)の順であった。

 所得や資産の格差は、消費、教育、住居、文化、健康等の格差をもたらす。つまり、所得や資産の格差が消費や文化活動の格差を生み、そして子どもの教育環境や家族の健康状態等にも影響を与える。いわゆる「多重格差」が広がっているのである。ソウル大学の『経済論集』に掲載された論文では、相対的に親の所得水準が高い江南地域の一般高校のソウル大学への合格率は2・1%で、相対的に親の所得水準が低い江北地域の一般高校の合格率0・1%より21倍も高いという結果が出た。要するに、親の所得格差が子どもの学力格差に直結していることになり、これも多重格差の一部であると言えるだろう。

 韓国国民が感じている二極化や所得格差がますます深刻化していることに比べて、最近韓国政府が発表した15年の所得再分配後のジニ係数は0・341で、14年の0・344に比べて改善されている。また、15年の所得五分位倍率も6・43倍で、14年の6・53倍に比べて低くなっている。所得五分位倍率とは、下位所得階層20%に対する上位所得階層20%の所得水準を意味しており、15年の所得五分位倍率が6・43倍であるということは、上位所得階層20%の所得が下位所得階層20%より6・43倍も多いと解釈することができる。

 このように所得関連指標が改善されたのは、14年7月から既存の「基礎老齢年金制度」を廃止し、新しく「基礎年金制度」を導入したことにより給付額が一人当たり最大20万㌆まで増加したことや、公的扶助制度である国民基礎生活保障制度の給付方式が既存のパッケージ給付から個別給付に切り替えられたことにより給付の対象者が増えた点が挙げられる。即ち、過去に比べて政府による所得再分配政策が強化されたことが格差関連指標の改善につながったと言える。

 実際に、所得再分配以前の15年のジニ係数や所得五分位倍率はそれぞれ0・381や9・86倍で14年の0・380や9・53倍より高い水準にある。つまり、ジニ係数や所得五分位倍率は韓国政府の所得再分配政策により低所得層や高齢者層に対する給付が増加した結果、数値が少し改善されてはいるものの、給付の対象から外れている人も多く、実際の所得格差は改善されているとは言い難い。


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