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2017/08/04

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第22回 家計債務の質的改善や低所得者の救済を                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆新政権はより効果的な対策実施すべき◆

 韓国の家計債務が深刻な水準である。韓国における家計債務は、2017年第1四半期現在1359兆㌆で対前四半期の1223兆㌆に比べて11・1%(136兆㌆増加)も増加している(02 年の465兆㌆に比べると3倍弱も増加した数値である)。最近、家計債務の最も大きな問題は、債務額の増加率が高くなっていることである。つまり、14年に6・2%であった家計債務の年平均増加率は15年には9・4%に、そして16年には11・4%に年々高まっている。

 では、なぜ韓国では最近家計債務が急増しているだろうか。その理由として最初に挙げられるのが、低金利が持続している点である。韓国銀行の基準金利は12年7月に3%に引き下げられてから低下し続け17年2月には1・25%まで下がり現在まで維持されている。つまり、低い金利により貸出に対する需要が増加していると判断される。実際、銀行や銀行以外の金融機関の家計向け貸出の増加率はそれぞれ15年の8・4%と8・7%から16年には10・1%と15・1%に増加した。

 家計債務が増加している二つ目の理由としては、貸出に対する政府の規制が緩和されたことが挙げられる。14年7月に就任したとして崔炅煥・経済副首相兼企画財政部長官(以下、崔炅煥副首相)は、チョイノミクスと呼ばれる経済政策を打ち出し、景気対策に取り組んだ。崔炅煥副首相は、内需拡大を目的に住宅市場の正常化を解決すべき主な課題として選定し、個人向け貸出 LTV(住宅を購入するときにその住宅価値のどのぐらいまで銀行から貸してもらえるかの比率=Loan to Value Ratio)と DTI(所得に元利金返済額が占める比率=Debt to Income Ratio)という家計貸出の審査基準を緩和した。その結果、住宅を購入するときにその住宅価値の70%までの金額を銀行から貸出することが可能となり、所得の60%水準までは借金して、不動産を購入することができるようになった。

 また、家計債務が増加した三つ目の理由としては景気低迷などの影響で早期退職した中高年齢者などがチキン店などの自営業を始めるために貸出をするケースや低所得層が生活費をまかなうために貸出をするケースが増加したことが考えられる。韓国政府は家計債務に対する対策として、これまでもいくつかの支援策を実施してきた。つまり、債務を延滞していない庶民向けの金融支援策として、ミソ金融、ヘッサルローン、セヒマンホルシ貸出、バクォドリームローンなどの政策を、また、債務を延滞している債務不履行者に対しては、フリーワークアウト、個人ワークアウト、信用回復基金などの政策を実施してきた。

 しかしながら、このような制度は、①性格が似ている支援策が多く、どの制度を利用すればいいのかよく分からない、②制度が分散しており、検索に時間がかかってしまう、③支援策の内容に対する十分な広報活動が行われておらず、潜在的な債務者の利用度が低いという問題点が指摘されてきた。そこで、韓国政府は 08年9月から実施されてきた信用回復基金を改正し、13年3月29 日に国民幸福基金を設立し、分散されていた支援策をできるだけ一つの制度に統合・管理し、家計債務者支援の強化を図った。国民幸福基金は、①債務調整(金融機関が保有している長期延滞債権を買い入れ、債務不履行者の債務減免や返済期間の調整、そして信用回復を支援すること)や、②低金利への切り替え(第 2 金融圏や消費者金融からの高金利貸出(20%以上)を低金利に切り替えること)により、債務不履行者が再び自立できるような環境を提供することを目指して実施された。実際、国民幸福基金の実施により13年3月から16年2月までの3年間、合計56万人(債務調整49万人、低金利への切り替え7万人)に対する債務調整や低金利への切り替えが行われた。しかしながら、制度の恩恵を受けている人は全体のごく一部であり、家計債務の総額は減るところか速いスピードで増え続けた。

 では、文在寅大統領は、


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