ここから本文です

2017/11/03

<オピニオン>曲がり角の韓国経済 第25回 高齢者の貧困問題が深刻、解決方法は                                                      ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

  • ニッセイ基礎研究所 金 明中 准主任研究員

    キム・ミョンジュン 1970年仁川生まれ。韓神大学校日本学科卒。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て現在、ニッセイ基礎研究所准主任研究員。

◆高齢者が安心して暮らせる社会の実現を◆

 2017年5月の大統領選挙で現在の文在寅大統領をはじめとする候補者らは、基礎年金の引き上げ、認知症支援センターの設立、医療費減免制度の拡大など高齢者に対する支援を主な公約として掲げた。少子高齢化の進行で有権者に占める高齢者の割合が増し、高齢者層の政治への影響力が増大している、いわゆるシルバー民主主義に対する対策だとも言えるが、実際、韓国における高齢者の経済的状況はかなり厳しい。16年における韓国の高齢化率は13・2%で、日本の27・3%に比べてかなり低い水準であるものの、高齢化率のスピードが速く、60年には高齢化率が41・0%まで上昇することが予想されている。17年に発表された日本の将来人口推計による60年の日本の高齢化率38・1%を上回る数値である。

 日本より社会保障制度の歴史が短い韓国は、少子高齢化に対する対策や将来の財政運営を準備する期間が十分ではない状態で急速な少子高齢化という波に直面している。13年における韓国の65歳以上高齢者の相対的貧困率(所得が中央値の半分を下回っている人の割合)は49・6%とOECD平均12・6%を大きく上回り、OECD加盟国34カ国の中で最も高い水準を記録した。その後2014年に韓国政府が65歳以上の高齢者で所得下位70%の者を対象とした基礎年金制度を導入し、給付額を最大10万㌆から20万㌆に引き上げたことにより、高齢者貧困率は15年に45・7%まで低下した。しかしながら、労働市場から離れた稼働収入のない労働者が高齢者層に多く編入されることにより16年の高齢者貧困率は再び47・7%まで上昇した。

 韓国の高齢者貧困率が他の国と比べて高い理由としては、公的年金(国民年金、公務員年金、軍人年金、私学年金)が給付面においてまだ成熟していないことが挙げられる。15年現在、公的年金の受給率(65歳以上人口の中で公的年金を受給している者の割合)は42・3%で、高齢者の半分以上が公的年金の恩恵を受けていない。さらに、公的年金受給者の88・3%を占めている国民年金受給者の1カ月平均給付額は、15年時点で31・2万㌆に過ぎず、一人世帯の最低生計費61万7281㌆を大きく下回っている。公的年金が高齢者の主な老後所得保障手段として位置付けられていないことが伺える。

 今後年金が給付面において成熟すると、高齢者の経済的状況は現在よりはよくなると思われるが、大きな改善を期待することは難しい。なぜならば韓国政府が年金の持続可能性を高めるために所得代替率を引き下げる政策を実施しているからである。導入当時70%であった所得代替率は、28年までに40%までに引き下がることが決まっている。所得代替率は40年間保険料を納め続けた被保険者を基準に設計されているので、非正規労働者の増加など雇用形態の多様化が進んでいる現状を考慮すると、実際多くの被保険者の所得代替率は政府が発表した基準を大きく下回ることになる。また、国民年金の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっており、実際の退職年齢との間に差、つまり所得の空白期間が発生している。韓国政府は長い間60歳定年を奨励していたものの、多くの労働者は50代半ばから後半で会社から押し出された。ようやく13年に「定年60歳延長法」が国会で可決、成立し16年から段階的に(17年からはすべての事業所に)60歳定年が適用されることになったものの、今後国民年金の支給開始年齢が65歳になると、所得の空白期間の問題は解決されない。従って、高齢者の貧困を解決するためには、まずは国民年金の支給開始年齢と定年を同じ年齢にし、所得の空白期間をなくす必要がある。

 一方、公的年金制度の持続可能性を危惧する人も多い。03年に100兆㌆を超えた国民年金基金の積立金は、14年7月末には453兆㌆まで増加しており、43年には


つづきは本紙へ


バックナンバー

<オピニオン>