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2017/02/17

<オピニオン>韓国企業と日本企業 第49回 ビジネス教養のための韓半島問題⑥                                                    多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

  • 多摩大学アクティブラーニング支援センター長 金 美徳 教授

    キム・ミトク 多摩大学経営情報学部および同大学院ビジネススクール (MBA)教授。1962年兵庫県生まれ。早稲田大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。三井物産戦略研究所を経て現職。

◆激変する韓半島情勢に備えよ◆

 前号に引き続き、朝鮮半島情勢の現状と展望を考察する。北朝鮮は、2016年9月に5度目の核実験を断行し、17年2月12日には新型の中長距離弾道ミサイル「北極星2型(IRBM)」を発射した。今後は、この成果に基づいて大陸間弾道ミサイルの開発に拍車がかかると見られている。大陸間弾道ミサイル(ICBM)とは、有効射程が超長距離(8000~1万㌔)で北アメリカ大陸とユーラシア大陸間など大洋に隔てられた大陸間を飛翔できる弾道ミサイル。北朝鮮から発射すれば20分ほどで米国本土に到達するという。

 一方、国連安全保障理事会が、16年11月に近年どの国に科した制裁よりも厳しい北朝鮮制裁を加えた。主な制裁内容は、石炭輸出を制限して北朝鮮の外貨収入(約30億㌦)の25%に相当する8億㌦を削減させること。また、米国財務省が、17年1月に単独で金正恩委員長の妹である金与正・党副部長や金元弘・国家保衛相など7名と2組織を制裁対象に指定した。この影響なのか金元弘氏は、北朝鮮の秘密警察トップ、すなわち国家保衛相を解任された。

 さらに、日米韓が、緊密な連携体制の確認や北朝鮮制裁の強化を図るため6カ国協議の首席代表会合を開く方向で調整を進めている。ただ、利害当事国は、北朝鮮制裁の意図にそれぞれ違いがあり、温度差があるためその制裁効果にどうしても限界が生じる。中国は、王毅外相が16年3月に「朝鮮半島は火薬の匂いが充満している」「中国は北朝鮮が米韓合同軍事演習に極めて敏感に反応していることを知っており、中国は深刻な憂慮を表明するだけでなく、中国の核心利益に関係する朝鮮半島の非常事態に備えなければならない」と述べている。中国は、北朝鮮の核ミサイル問題に深刻な憂慮をしている点は日米韓と一致しているが、米韓合同軍事演習に対して反対する点は北朝鮮と一致している。

 緊迫する韓半島情勢について北朝鮮専門家は、以下の通り分析している。ウェンディ・シャーマン前国務次官や尹徳敏・韓国国立外交院院長などは、①金正恩委員長が率いる北朝鮮の暴挙は、挑発的でとても危険である。北東アジアだけでなく、米国の安全保障上も大きな懸念材料となっている。また、中国も金正恩委員長の行動をとても憂慮している。

 ②北朝鮮は、核ミサイル計画を止める窓が開いているとは思えない。金正恩委員長は、リーダーとして平和的な解決策を欲しているようには見えない。金正恩委員長の心臓に届くような制裁が必要である。③金正恩委員長は、故金正日総書記よりも危ない。故金正日総書記は、核兵器の開発計画を主導し、国民を飢餓状態のまま放置し、強制労働所に収容した。それでも故金正日総書記は、まだ交渉に前向きだった。また、多くのサインを米国に送り、いくつかの進展もあった。金正恩委員長は、何の進展も見られない。金正恩委員長の残虐さは、これまで見たことがないほどである。顔を上げた人間は皆、殺されてしまうようにも見える。

 ④オバマ政権による対北朝鮮政策である「戦略的忍耐」は、米国内外で批判が強まっている。「戦略的忍耐」とは、北朝鮮が朝鮮半島の非核化に応じるなら米国はいつでも北朝鮮と直接交渉に応じる用意があるというものである。しかし北朝鮮は、応じなかった。

 それでは、北朝鮮問題をどのように解決、または管理すればよいのか。最も支持されている解決・管理方法は、北朝鮮制裁の目的を北朝鮮の政権交代ではなく、非核化させるという考え方である。某駐韓米国大使は、「北朝鮮制裁の目的を北朝鮮の政権交代を目標にすれば、失敗する可能性が高い」と述べている。したがって北朝鮮が、核脅威を強めながらも非核化の第一歩といえる核実験中止、または核凍結を交換条件として提案する際に、制裁とともに北朝鮮に提供できる肯定的な誘引策を設計する必要がある。すなわち「感情的な国際政治」から「理性的な国際政治」に転換を目指すということである。

 具体的には、①北朝鮮にこれ以上の核兵器を作らせない、②これ以上高性能な核兵器を作らせない、③核技術を他国に輸出させないという米国の「ペリー案(3つのノー)」がある。これは、ウィリアム・ペリー氏(民主党、90年代クリントン政権の国防長官)が、16年1月に発表した論文「北朝鮮をどのように封じ込めるか」であり、考案は米国政府の核専門家シグフィールド・ヘッカー氏である。田中宇氏の論考「北朝鮮に核保有を許す米中」も参照しながら「ペリー案」を解説する。

この論理は、


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