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2017/04/21

<オピニオン>転換期の韓国経済 第86回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第86回

◆文、安候補の経済政策◆

 韓国では5月9日の大統領選挙に向けて、選挙運動がスタートした。4月上旬までは、最大野党「共に民主党」の前代表である文在寅候補の当選がほぼ確実視されていたが、最近では、野党第二党「国民の党」の前共同代表である安哲秀候補の支持率が急上昇し、事実上一騎打ちの様相を呈している。この背景には、「共に民主党」の反文在寅派の一部が安哲秀候補の支持に回ったこと、保守陣営のなかで文在寅候補当選への警戒感が強まり、安全保障政策で現実的な方針を示した安哲秀候補を支持する動きが広がっていることがある。これを意識してか、同候補は十大公約の一番目に、「強固な安全保障を土台にした朝鮮半島の非核化と平和体制の構築」を掲げて、THAADの配備を明記している。

 経済政策をみると、雇用創出や格差の是正、福祉・少子化対策の拡充などを進める点で大きな違いはないように思われるが、両者の間には国家観(政府の役割)や時代認識という点で違いが存在する。

 文在寅候補のこれまでの主張や選挙公約をみると、大統領罷免にまでいたった政経癒着と腐敗を根絶し、国民が安心して暮らせる公正で正義にもとづく、国民中心の社会の建設をめざしていることがわかる。公約の一番目に挙げたのが「雇用に責任をもつ大韓民国」である。背景には、低成長が続き(下図)、若年層の就職難が問題になっていることがある。公共部門を中心に約81万人分の雇用創出計画を打ち出している。消防、社会福祉、教師、警察など国民の安全や福祉などのサービスを提供する公務員などで約17万人、保育、医療などのサービスを提供する公共機関で約34万人、その他で約30万人の雇用を創出する。雇用創出において、政府が中心的な役割を担おうとするのが文在寅候補の考えである。歳出の改革と歳入の拡大によって財源を確保する方針であるが、福祉分野などでも政府支出の拡大が見込まれるため、財政的に実現可能かどうか疑問である。

 若年層を対象にした雇用機会についても、まず公共部門で就業者全体に占める若年層の割合を現在の3%から5%へ広げる計画である。民間部門に関しては、規模別に目標を設定し、インセンティブを付与して目標の達成に努めさせる一方、達成しなかった企業に対しては雇用負担金を賦課する方針である。

 他方、安哲秀候補の経済政策を貫く考えは、①国家主導の発展パラダイムから民間主導の発展へ転換する、②雇用を創出するのは民間企業である、③政府の役割は民間企業の活動を側面から支援する、というものである。

 この考えが端的に表れているのが、公約の二番目「良い成長と良い雇用」である。創造力を伸ばし、経済革新を担う人材を育成するために教育改革を進める方針で、現行の6―3―3―4制から5―5―2―4制へ変更すること、また、第四次産業革命を進めるために、10万人の人材を養成することが計画されている。

 両者の考えの違いは財閥改革にも反映している。文在寅候補は公約の三番目として、「公正で正義にもとづく大韓民国」を掲げ、反腐敗・財閥改革について触れている。財閥への経済力集中が腐敗の温床になっており、民主化を進める上で財閥改革は欠かせないという認識といえる。財閥改革の一環として、系列企業間の出資規制が盛り込まれている。


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